「ポジティブ思考=正義」という空気が社会を覆っている。慎重で用心深い「内向型」の人は、息苦しさを感じてしまう場面も多いだろう。だが、そんなネガティブ思考の人の特徴こそ、見方を変えれば強みに変換できるという。AERA 2023年7月17日号の記事を紹介する。
【図】「内向型」の人が「ポジティブ圧力」に苦しんだ体験談はこちら
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京都市内のホテルの大宴会場。起業家と投資家をつなぐ「カンファレンス」の会場に約1千人が集まった。都内でITサービスのスタートアップを創業して間もない当時の西村和則さん(37)もその一人。資金繰りに行き詰まり、藁にもすがる思いで合流した。
周囲は自信に満ちた「社交オーラ」を発散する気鋭の起業家ばかり。立食会場のあちこちで繰り広げられるアピール合戦。西村さんは「ポジティブ圧力」に押しつぶされそうになりながら、名刺交換したばかりの数人の投資家を前に開発中のネットサービスを説明した。
プレゼンが終わると、年配男性の一人が無表情のまま口を開いた。
「ビジネスとしての可能性は感じられませんね」
東京のビジネスコンテストで最高賞に選ばれたアイデアだったが、西村さんはその一言に凍りつき、言葉が出なくなった。
「これはきついな、と。まだ実績のないものを売らなきゃいけない状況ってすごくしんどい、とあらためて実感しました」
西村さんは約10年前のこのシーンをしみじみと振り返った。
「社会はこういうものだ」というバイアスにのみ込まれ、自分にとって「苦手の極み」のような場に一人で出向いた。「これは戦略ミスの典型例です」。そう自己分析する西村さんは自他ともに認める「内向型」だ。
「ポジティブ思考こそ正義」と言わんばかりの空気が社会を覆っている。そんな中、用心深くて慎重で内向的な人は、職場や学校で居づらさを感じることも少なくないだろう。だが、一見すると弱みに見える内向型の性質も、強みを生かせる戦略さえ身につければビジネスでの成功は可能だ。西村さんはそのお手本のような起業家人生を歩んできた。軌跡を振り返ろう。