――情報工学科ができたのは2001年ですね。

 ええ、その年は工業経営学科の学科主任が継続されて、私は翌年、「情報工学科学科主任」の辞令をもらった。すでに皆に根回しされていて、断る可能性はゼロでした。ちょうどそのとき更年期になっちゃって、結構大変でしたね。2年の任期が終わったときはホッとしました。

――2004年3月までですね。前編冒頭のお話に出てきた50歳の誕生日を迎えて間もないころ。そのころから、自分のやりたい研究をやれるようになった。

「工学部の女性教員として、女性のために自分のやるべき研究を自覚してやるようになった」という言い方のほうが適切かもしれません(笑)。そして定年を迎え、その後に、米国の共同研究者が全米科学財団(NSF)に申請していた「かわいい」の研究プロジェクトが通ったんです。日本側の研究代表者は現役の先生にお願いしましたけど、私もチームの一員として研究を続けています。

定年退職のときのパーティーで、教え子の名前がずらりと並んだ「教員卒業証書」をもらった=2019年、大倉典子さん提供
定年退職のときのパーティーで、教え子の名前がずらりと並んだ「教員卒業証書」をもらった=2019年、大倉典子さん提供

 私が「かわいい」の研究を始める前は、そもそも「かわいい形」とか「かわいい色」といったものが存在するのか疑問視する人もいたんですが、形や色を見せて「最もかわいいと思うものを選ぶ」という実験をしてみると、確かに「かわいい形」や「かわいい色」が存在するとわかった。形では「直線系より曲線系のほうがかわいい」し、色では「明度と彩度がある程度高く、色相は黄赤(橙)や黄緑がかわいい」。かわいくないのは、「明度と彩度の低い色(くすんだ色)」です。興味深いことに、他国における「かわいい色」の結果は日本人とは必ずしも一致しません。その理由を突き止めるのは、今後の課題です。

 また、かわいいには「わくわく系」と「癒やし系」があって、「わくわく系」では心拍が上がりますが、「癒やし系」では心拍が下がることもある。こうした研究結果は、さまざまな工業製品やウェブサイトなどを「よりかわいく」するための指針を与えてくれることになります。実際、かわいくするとよく売れる。それはさまざまな商品で観察されています。

――確かに。考えてみると、ご当地キャラは「かわいい」のオンパレードですね。

 そうですね。人気の高いご当地キャラは、私が明らかにした「かわいい」の条件に合致する点が多いです。

 ハローキティやアニメのかわいいキャラクターたちは、外貨獲得に貢献しています。

 日本発の「かわいいアバター」や「かわいいロボット」、「かわいいパッケージの製品」が世界中に広がってほしいです。それが争いを世界から減らす力にもなると信じています。

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高橋真理子

高橋真理子

高橋真理子(たかはし・まりこ)/ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネータ―。1956年生まれ。東京大学理学部物理学科卒。40年余勤めた朝日新聞ではほぼ一貫して科学技術や医療の報道に関わった。著書に『重力波発見! 新しい天文学の扉を開く黄金のカギ』(新潮選書)など

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