芝浦工業大学名誉教授の大倉典子さんは、「かわいい工学」の第一人者である。東京大学大学院の工学系研究科修士課程を修了して日立製作所の中央研究所に就職したのは、男女雇用機会均等法が施行される前。民間企業の多くは大卒女子の募集をしていなかった。給料も高卒扱いとは就職後に知ったのだという。そんな差別的な扱いを、労働組合も問題だとは考えなかった。はた目から見れば、社会の理不尽さに翻弄された20代である。そこから、大学教授として「かわいい工学」を創始して発展させるまで、どんな道を歩んだのだろう。(聞き手・構成/科学ジャーナリスト・高橋真理子)
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――大学院修了の女性が日立製作所の中央研究所に入るのに、高卒用の試験を受けるしかなかったというのは、今の時代の人には想像ができないでしょうね。働き始めて3カ月たったらお給料が下がったとおっしゃいました。
はい。大卒男子は上がったのに、私は下がったんです。組合に相談に行ったら、3カ月は試用期間で大卒男女は同一の給料だけど、7月からは男性は大卒の給料、女性は高卒の給料になる。高卒でも男性は年々上がるけれど、女性は5年目ぐらいで上がらなくなる。私は高卒の入社7年目と同じ扱いになるからこの金額で間違っていません、と言われた。
組合にはがっかりしました。給料が下がったという事実に目を向けてくれないんですから。でも、組合がそう言うならどうしようもないですよね。
――就職する前に、お給料についての説明は聞かなかったのですか?
初任給は男女同一賃金だと言われました。でもそれが最初の3カ月だけだとは気づきませんでした。
――いや、それはあまりに不誠実な説明ですね。
就職して1年後に大学時代に付き合っていた人と結婚しました。彼は、私が大学2年生のときにプログラミングを教えてくれた同級生で、日立の中研に先に就職していたんです。