度重なる急な通院のため、職場には「婦人科系の事情で通院している」と話して理解を得た。小川さんの仕事は、突発的に対応しないといけない場面も少なくない。本当は婦人科に通っていることも職場には伏せておきたかったが、妙な心配をされても困ると思った。
卵子凍結はすべて自費診療だ。小川さんの場合、1回の採卵ごとに約40万円がかかり、保管費用などを含めて支払った総額は100万円を超えた。
「確かに大金ですが。将来のために、自分でやれることはやったというある種の達成感はあります」(小川さん)
■ 仕事優先の人生設計は実は少ない
少し前まで、健康な女性の卵子凍結は「キャリアを優先させたい女性のための選択肢」としてのイメージが強かった。しかし、現実は若干それとは異なる。卵子凍結のカウンセリングや保管サービスを行うプリンセスバンク代表の香川則子さんは言う。
「キャリアのために出産を先送りしたいという理由で、卵子凍結を検討している人は、思いの外少ないのです」
香川さんは「子どもが欲しいけれどパートナーがいない」「妊活中だが年齢のせいかなかなか妊娠しない」などの切実な声を多く聞くという。今は仕事を優先で出産はその後という人生設計のためではなく、ままならない現状がまずあって「時計の針を少しでも止めたい」と選択する人が多いようなのだ。
母体の年齢が30代半ばにも上がれば、卵子の加齢によって体外受精をしても成功率が下がる傾向にある。しかし加齢による影響が少ない若い卵子で体外受精をすると、仮に母体が30代後半以降であっても、妊娠率は上がる傾向にある。母体の加齢は止められないが、卵子の質の低下を止められる技術が卵子凍結といえる。
注意したいのは「何歳のときに卵子を保存するか」という点。個人差もあるが、卵子の老化は31歳ごろから始まり、35歳頃から明らかに「下り坂」になり、そして39~40歳ごろにかけて急激に進むとされる。そのため、不妊治療で効果を得るためには、「できれば34歳ぐらいまでに卵子を採取するのが効果的で、遅くとも37歳までに保存しておいた方が良い」(プリンセスバンク代表・香川則子さん)という。日本生殖医学会のガイドラインでも、「卵子の採取時の年齢は、36歳未満が望ましい」とされているが、実際の採卵時の年齢の上限はクリニックによって異なる。原則的には「満40歳の誕生日まで」としているところも多い。