友人が小川さんに打ち明けたのが、卵子を凍結した話だった。半年ほど前に卵子を採取し、凍結したこと。それによって、心が少しだけ軽くなったこと。結婚や出産について、前より少しはマイペースに考えられるようになったこと――。
友人は「すでに老化している卵子だから、産める可能性は高くはないんだけど」と前置きしつつ、「お金はかかるけど、やってみるのもありかもしれないよ」と話した。友人の言葉は、思いの外、胸に深く突き刺さった。
そこから決断するまでは早かった。自分はすでに若くはなく、卵子の老化が加速している年齢にいる。分かっているのは、「今が一番若い」こと。ならば今しかない。
友人の話やネットの口コミを参考にし、複数のクリニックの卵子凍結セミナーなどにも参加して比較し、割高だが、実績数が多く説明も丁寧だと感じたクリニックに決めた。
■通院のタイミングや回数はコントロールしにくい
卵子凍結の、おおまかな流れはこうだ。
採卵の手術日を決め、排卵誘発剤(ホルモン剤)を投与し、卵胞(卵子が入った袋)を育てる。通常、1回の生理周期で排卵される卵子は1~2個。卵子凍結では、一度の採卵手術で複数個の卵子を採取するために、採卵手術の2週間前からホルモン剤を投与し、できるだけたくさんの卵胞を育てていくのだ。
このホルモン剤は、注射か飲み薬で投与されるが、注射の場合には病院に頻繁に通うこと避けるため、「自己注射」を選択する人もいる。
予想した卵胞の数に近づき、成熟した卵子ができたと医師が判断したら、排卵を促進するための筋肉注射を行う。注射後、約36~40時間後に採卵を行う。採卵自体は短時間で終わり、日帰り手術として行われる場合がほとんど。術後に出社する人も少なくないという。
採卵手術は、膣の内部から細い針を卵巣に刺し、一つひとつの卵胞から卵子を吸い出す。一度の採卵数の目安は1~15個とされており、もし1回の採卵手術で希望数の卵子が採取できなかった場合は、再度手術に臨む人もいる。なお、採卵には痛みが発生するため、採卵する数や状態によって、麻酔や鎮痛剤の使用が検討される。取り出した卵子はマイナス196度の液体窒素で凍結され、専用の容器に入れて保管される。
小川さんは、3回の採卵手術を経て、合計18個の卵子を採取した。予想以上に大変だったのは、採卵までのスケジュールと身体的な負担だ。通院のタイミングや回数は、月経周期や卵子の生育具合などに左右されるため、自分の意思でコントロールすることは難しい。