写真はイメージです(GettyImages)
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 40歳の誕生日を迎える1カ月前のことだった。都内にある外資系のコンサルティング企業で働く小川幸恵さん(仮名・40)は半年前、合計18個の卵子を採取し、凍結した。

「 “私には凍結している卵子がある”ということが心のお守りになってくれている気がします」

 小川さんは大学卒業後、海外の大学院に留学。帰国後、コンサルティング企業に就職し、現在の会社が2社目だ。多忙だが仕事は順調で、3年前に管理職になった。

 子どもについて意識し始めたのは、30代半ばになってから。周りはベビーラッシュだった。「体力的にも経済的にも早いうちがいい」「卵子が老化して、産みたくても産めなくなる」「子どもはいたほうがいいよ」——。そんな言葉に何気ないふうを装ってきたが、内心は焦りが募っていた。高齢で妊娠・出産した芸能人のニュースを見るたび、「私もまだ大丈夫」だと言い聞かせてきた。

 正直、結婚はしなくていいけど、子どもは欲しい。長い独身生活で、誰にも気兼ねなく過ごす日常の心地よさにつかってきた。しかし、パートナーがいない状態で40歳目前。現実を直視すると、タイムリミットがいよいよ差し迫っていると思った。

「将来を真剣に考えられる相手でない人と、恋愛ごっこをしている余裕はない」

 そこで生まれて初めて結婚相談所に登録。だが、お見合いパーティーに行くと、厳しい現実を目の当たりにした。明らかに自分より若い女性が圧倒的に多い。男性は40代もいるが、若い女性に関心が向いているのが痛いほど分かる。

「この年齢で、結婚相談所で相手を決めるのは、ほぼ無理だと思う。私も経験して、ダメだった」

 小川さんの気持ちをおもんぱかったのは、大手金融機関に勤める同い年の友人だ。その友人も子どもが欲しいが、決まったパートナーがいない。小川さんと同じような状況にある。

「実はね……」

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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