故・野村克也氏
故・野村克也氏

 野村氏の教えは、教え子たちに引き継がれている。その中で、「野村カラー」を最も色濃く受けている指導者は誰だろうか。スポーツ紙デスクは、「新庄剛志監督でしょう」と即答する。

「監督に就任した昨年の派手なパフォーマンスや言動が話題になりましたが、新庄監督が選手に求める野球は緻密です。守備と走塁を重視し、状況判断を誤ったプレーに対して厳しい。オリックスソフトバンクに個々の選手の能力や経験値、選手層の厚さで分が悪いことは分かり切っている。勝機を見出すために、細かい野球を突き詰めるスタイルは野村さんの『弱者の兵法』に相通じる部分がある。育成能力も高い。万波中正、清宮幸太郎、上川畑大悟、伊藤大海、北山亘基と我慢強く起用し、大きく飛躍している。野村監督と共通する点は年齢関係なく、伸び悩んでいた選手を輝かせる手腕に秀でていることです。松本剛、田中正義、江越大賀、鈴木健矢はその代表例でしょう」(スポーツ紙デスク)

 松本剛は度重なる故障などで1軍に定着できなかったが、新庄監督が就任したプロ11年目の昨年に大ブレーク。117試合出場で打率.347をマークして首位打者に輝いた。田中正は昨オフに近藤健介の人的補償でソフトバンクから移籍。ドラフト1位で5球団が競合した右腕はプロ6年間で未勝利だったが、新天地で輝きを取り戻す。今季はセットアッパーで結果を残すと4月下旬に守護神に抜擢。150キロ中盤の剛速球と落差の鋭いフォークを武器に、21試合登板で1勝1敗8セーブ7ホールド、防御率2.70と好成績をマークしている。

 新庄監督の指導が野球人生を変えた選手も。江越大賀は阪神で20年から3年連続無安打だったが、高い身体能力を評価した新庄監督がトレードで獲得を熱望。つきっきりの打撃指導で土台から作り直し、乱視対策の特注サングラスを装着するように助言。外野の守備では俊足を生かした広い守備範囲と強肩でチームを幾度も救い、課題の打撃でも3試合連続アーチを放つなど存在感を示している。

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固定観念にとらわれない野球観