じつは退院間際に病院から、母親には朝夕の痰の吸引が必要であるといわれたのだそうです。そのことをホーム側に伝えると、「入居は見送ってほしい」との回答で、女性は落胆していました。

「痰の吸引」や、おなかに開けた穴からチューブを通して直接胃に食事を入れる「胃瘻」の対応については、以前は医療行為として介護士はおこなえない行為だったのですが、2012年からは一定の研修を受ければ実施が可能になりました。最近は、「痰の吸引、胃瘻の方でもお引き受けします」という施設も増えていますが、すべての施設で対応可能というわけではありません。女性が希望したホームでは、おこなっていなかったのでしょう。

■希望するサービスを外付けできる場合がある

 私は即答しました、「痰の吸引は訪問看護で、外付けにすればいいんですよ」。女性は「え? そんなことできるんですか?」と驚いた様子でした。介護保険ではなく医療保険の範疇(はんちゅう)に入る場合もありますが、施設によっては訪問看護を外付けにできます。調べてみると、その施設は訪問看護サービスを利用できる施設でした。

 私は女性に、本当にそこのホームへの入居しか考えられないのか、ほかではダメなのかをたずね、意思が固いことを確認しました。そして、次のようにアドバイスしました。

「なぜこのホームを心から希望しているのか(父がこのホームで提供されたケアをみて、このホームを信頼しているから、母もここで最期まで暮らさせたいこと、子どもである自分たちの生活を守るためにも必要であること)を誠心誠意説明しなさい。自分の気持ちを伝えるために必要とあれば、涙の一粒も流しなさい」。担当者が「痰の吸引さえなければ」と言ったら、「それだけが問題なのだったら、それができる人を探してください」と頼む。そうすれば、「そこまで言うなら、ホームがお世話になっている訪問看護師や医師に頼めるかもしれない」と話が広がるはずです。最初から「訪問看護でお願いします」というよりも、穏便に話を進めることができるでしょう。

暮らしとモノ班 for promotion
「Amazonブラックフライデー」週末にみんなは何買った?売れ筋から効率よくイイモノをチェックしよう
次のページ
すぐにあきらめるのではなく、まずは交渉