末武氏は追い打ちをかけるように、日経新聞に記事の訂正を求め、社長の真意を局長と社員に説明するよう申し入れた。末武氏は5月16日付の会員向けメッセージでそう明かし、「非常に心配されていると思うが、今後も必要な対応を行っていく」と書き添えた。翌17日には予告どおり、増田氏による釈明がグループ全社員にあててメールされた。どっちが偉いのか、これではよくわからない。
末武氏の説明からは、たとえ遠い将来のことでも統廃合を口にするのは「絶対タブー」という信念が読み取れる。
そこまで彼らが「局数」にこだわるのはなぜなのか。
最大の理由は、局数の維持がピラミッド組織である郵便局長会の各層にとっての利権そのものだからだ、と筆者は考えている。
死守したいのは旧特定局の数
2万4千の郵便局のうち、約4千は業務を外部に委託する簡易郵便局。直営局とされる残り2万局のうち、約1100が大型の旧普通郵便局、そして約1万9千弱が旧特定郵便局だ。旧特定局長のほとんどが局長会の会員であり、全特が死守したいのも旧特定局の数だ。
局数は当然、局長ポストの数に直結する。そして、局長になる者はほぼ全員が局長会に入る。局長会に入るほうが採用に有利で、しかも局長会に入らなければ業務や出世が困難となる状況があるからだ。
そうした歪んだ人事構造に支えられ、局数の維持が局長会の会員数の維持にもつながる。会員は政治活動に取り組むことが条件なので、選挙などに無償で動かせる現役世代を安定的に確保できるようになる。
さらに、局長会の会員は毎年20万円超の出費を強いられるのが一般的だ。それは組織の運営費や国会議員に流れる政治資金といった活動費を数十億円規模で調達できる資金源にほかならない。
局長会は局長が自ら局舎を持つ「自営局舎」を推進しており、移転局舎があれば局長に取得するよう働きかける例が目立つ。土地を取得して局舎を建てるための資金を局長会の関連団体が融資することで、日本郵便が支出する店舗賃料を元手に、多額の利息収入を稼ぐことも可能にしている。
要するに、郵便局の統廃合に手をつけられれば、組織の力を維持する「ヒト」と「カネ」の供給システムが打撃を被る。これが口にすることも認めない最大の理由だろう。
「深刻化」する前に
いまいちど増田氏の言葉とともに、07年の郵政民営化後の道のりを思い起こしてほしい。
民営化で経営の自由度を高めたはずが、局長たちは「局数の維持」などを名目に民営化を凍結させ、さらに骨抜きにしていく法改正で足かせを増やすことに奔走した。局長会の要望を受け入れた法改正が実現すると、組織はあぐらをかいて本来の目的を見失い、「組織力の維持」自体が目的化していたのではないか。