田上は相撲での実績もあったし、からだが大きいから大技がことさら見栄えがよかったね。多少の粗があっても、戦う相手に三沢光晴、川田利明、小橋健太がいたから、そんなに目立たなかった。三沢たちは田上の粗をカバーできるテクニックを持っていたしね。
だから、四天王プロレスの中で一番得をしたのは田上じゃないかな。それでも、田上はよくがんばって四天王の一角に食い込んだもんだよ。馬場さんと一緒にゴルフをやっていたのがよかったんじゃないか(笑)。
田上は相撲で成功しているし、気持ち的に緩やかな部分もあったから馬場さんも接しやすかったんだろう。プロレスでシャカリキにならなくてもいいという気持ちの余裕がいい方に作用したと思う。三沢や川田はギラギラしていたからね。それに、馬場さんが目指した全日本プロレスを体現したのも田上だ。ジャンボ鶴田みたいに大きい選手が馬場さん好みだからね。
相撲で成功したといえば、横綱までいった輪島さんや北尾光司がいるけど、どちらも「俺は横綱だ」という意識がついて回って、最後までプロレスにまで自分を落とせなかったように思う。相撲とプロレスは同じ格闘技で、土俵とリングの中で投げたり殴ったりするから見た目は入りやすいんだよ。
俺がいた二所ノ関部屋の先輩の栄岩(大剛鉄之助)さんも、二所ノ関部屋にいる頃から「俺は相撲よりもプロレスの方が合っていると思うんだ」と言って、プロレスに転向したからね。
でも、実際に入ってみると、ところがどっこいで、うまくいかないことが多いわけだ。相撲上がりは俺も含めてみんな苦労したけど、石川隆士だけは順応が早かった。「こいつは器用だな」と思ったのは石川くらい。ほかはみんな動きがおかしかったり、いらぬ技を出したりするのが目につくもんだけど、彼だけは別格だったよ。
今にして思うと、俺も相撲からプロレスに転向したおかげで、アメリカに4年もいたり、日本全国あっちこっちに行ったりして、楽しい思い出もあって、面白い人生だったって思うよ。プロレスに入っていなかったら、今のように少しは名前の知れた人間にはなってなかっただろう。相撲を続けていても、相撲部屋を持つほどの財力も知名度もなく、田舎に帰ってちゃんこ屋をやっていたんじゃないかな。