トッド そうですね。先ほども少し触れましたが、世界には確かにさまざまな家族システムがあり、それがまさに人類学的な観点なんですけれど、そこと思想というものには関係があるということが、私が人生を通してずっと研究してきた点なんです。
たとえば、個人の解放や個人主義につながる核家族構造というのは、民主主義の台頭には欠かせない要素の一つであるということや、父系制や共同体家族構造の地域では、共同体的なシステムが政治システムを生み出す傾向があるといったようなことです。
ところが、今の西側の特徴であり問題になっているのは、「核家族」という家族システム、親族システムというものがそこにありつつも、実はその民主主義の形というものがだんだんと衰えつつある、死につつあるというところなんです。
西側で何が見られているかというと、民主主義というよりも、不平等や寡頭制の台頭です。これは一部のエリートが富や政治力を独占する「リベラル寡頭制」と私が呼んでいるものなのですけれども、アメリカでもこれはひじょうに顕著に見られます。
アマゾン創業者のジェフ・ベゾスのような人物や、トランプなんかもそうですね。ある意味、多元的寡頭制というふうに呼べるものが見られるわけです。
実は、これはウクライナにも見られました。一方で、フランスはなかなかそこまではいっていません。というのは、個人より国家のほうがまだ大きすぎるからなんですね。
●エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd)
歴史人口学者・家族人類学者。1951年、フランス生まれ。家族構成や人口動態などのデータで社会を分析し、ソ連崩壊などを予見。主な著書に『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』(文芸春秋)『第三次世界大戦はもう始まっている』(文春新書)など
●池上 彰(いけがみ・あきら)
ジャーナリスト。1950年、長野県生まれ。NHKの記者やキャスターを経て、フリーに。名城大学教授、東京工業大学特命教授。主な著書に『世界史を変えたスパイたち』(日経BP)『第三次世界大戦 日本はこうなる』(SB新書)など