エマニュエル・トッド氏
エマニュエル・トッド氏

 ただ、ロシアが慣習面でどこかの国に何か影響を与えたいと考えているとしたならば、それはロシアと同じ父系制の国々に対してではないかと、私は思うわけです。それはアラブの世界だったり、サウジアラビアだったり、中国だったりといった国々ですね。

 アメリカがロシアへの介入に執着している様子は、ひじょうに興味深い点でもあるんですけれども、それはアメリカ社会の、自分自身の弱みを見せつけてしまっているということでもあるからなんです。

 ロシアというのは人口的に、アメリカの人口の半分です。そして、アメリカは超大国といわれている国なんです。

 そのなかで、アメリカのエリートたちが、ロシアの一部の人が自分の国の選挙に介入してきているというようなことを言うのは、ひじょうに滑稽なことといいますか、それは実はアメリカの国内がパニックに陥っている証拠でもあるというふうに思えるんですね。

 それからもう一つ、アメリカはロシア人に対していろいろと批判をするわけですけれども、実はアメリカ人自身たちが常にしてきたのと同じことを、ロシア人に対して批判しているという状況があります。

 アメリカは、ヨーロッパにおいてもイタリア、ドイツなどでひじょうに介入をしています。ウクライナやロシアの国々を不安定化させるなどしてきた国なわけです。アメリカがロシアに対してする批判というのは、まるで自分がしてきたことをしている相手に対しての批判と、そういうふうにもとらえることができると思います。

池上 トッドさんは、ウクライナ戦争というのは単なる「民主主義陣営vs.専制主義陣営」ではない、政治学、経済学といった「意識レベル」では的確にとらえられず、人類学的(無意識レベル)で解釈する必要があるとおっしゃっています。つまり、ウクライナ戦争とは、ロシアと西側による無意識レベルの人類学的な対立、こういうふうに見ていらっしゃるということでしょうか。

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民主主義が死につつある