ジェーン(ジュリア・ガーナー)は映画プロデューサーを夢見て、映画業界に飛び込んだ新人アシスタント。早朝、誰もいないオフィスで雑用をし、ボスに電話で暴言を吐かれても、黙々と働く。が、ある出来事をきっかけに疑問が湧き上がり──。膨大な取材をもとに編まれたリアル・フィクション映画「アシスタント」。キティ・グリーン監督に見どころを聞いた。
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2017年に(元映画プロデューサーのハーヴェイ・)ワインスタインの事件が報道され、自分のいる業界にテーマがあると気づいたんです。100人以上の主に女性、組織の下層にいる人々に話を聞き、そこからジェーンというキャラクターが生まれました。
取材から映画業界がいかに男性優位であるか、男性が全体をコントロールし、その構造を悪用しているかがあらためて見えてきました。ただ描きたかったのは特定の「悪者」ではなく、なぜ業界の構造がそうした悪を可能にしているかということです。それを見つめるためにジェーンの日々の仕事をドキュメンタリーのように観察し、感情を排し、淡々とスクリーンで見せるという手法をとりました。
ジェーンは状況に変化をもたらそうと動きますが、何も変えられないことに気づきます。実際に問題を上に報告しようとして無視されたり、「仕事を失うよ」と脅迫されたりした体験を多く聞きました。当時は「何をしても変えられない、変わらない」という悲観的な意見が多かったのですが、23年のいま、状況は確実に変わっています。
17年以前は問題について、どのように語るべきかもわからなかった。でもいま人々は声をあげることを学びました。安全な職場環境や善悪や不平等について語り、改善しようと動いています。私も本作によって過去の経験を口に出し、自分の中のモヤモヤを吐き出すことができたと感じています。
本作を観た企業の上の立場の人たちから「部下をフェアに扱うべきだと気づいた」「より女性に平等に機会を与えるべきだとの認識が芽生えた」という意見をもらいました。会社や社会の中でディスカッションが起き、誰もが平等に機会を得られるよう、変化が起きればと思っています。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2023年6月26日号