「法の範囲内でどこまで受給者の希望に寄り添えるかの観点で運用しています」(同)

 受給者への有利な取り扱いは歓迎すべきことかもしれない。しかし、年金事務所の年金相談を知る複数の関係者に男性の事例を示すと、そうも言っていられなくなる。

「年金事務所では認められないケースです。妻が死亡した時点で遺族厚生年金の受給権は発生していて、それ以後、繰り下げはできなくなります。たとえ窓口の担当者が見逃したとしても、バックオフィスが気付いて繰り下げ終了になるでしょうね」

「他年金の受給権は、繰り下げ請求者が来たときに調べるイロハのイです。とりわけ配偶者死亡による遺族厚生年金のケースは、例が多いのか、注意事項になっているようです」

■取り扱いが異なる恐れ

 男性の例はともかく、通常は先の三宅氏の解説に基づいた解釈で受給権の発生と繰り下げの是非を判断しているように思える。機構の広報室もこう言う。

「繰り下げ請求に来た人には、繰り下げる際の注意事項を説明しています。66歳以降の繰り下げ待機中に妻が死亡して、それ以降も繰り下げ待機を続けている人が請求に来た場合は、生計維持要件に該当していれば、妻死亡時で繰り下げの増額率は固定されたことを説明することになります」

 だとすると、同じケースでも公立学校共済と年金事務所で違う取り扱いをされる可能性がある。この男性の場合、両方に記録があったために取り扱いがそろえられたようだが、「公務員だけ」「民間だけ」だと、取り扱いが異なる可能性が高まる。

 男性の体験が、この見方を裏づける。2年前に、妻死亡で妻が受給していた年金に「未支給年金」(本人に支給すべきもので、まだ支給していないもの)が発生した時のことだ。

「未支給年金の請求に窓口へ行ったんです。年金事務所では、私には妻の遺族厚生年金の受給権が発生しているから、『ルールに従って繰り下げは妻死亡の時点で終了』と説明を受けました。その時点での年金見込み額を試算した資料ももらいました」

 ところが、公立学校共済では対応が違っていた。

「年金の決まりで、妻の遺族厚生年金は請求しても全額支給停止で『0円』になると聞きましたが、繰り下げを続けられなくなるという説明はありませんでした。若い職員に『繰り下げをしておられますね。もったいない、どうぞ』などと言われました」

 同じ法律に基づいているのに、実施機関によって取り扱いに差が生じ、不公平な事態が生じるようでは困る。先の三宅氏もこう指摘する。

「一元化前ならまだしも、一元化以降に共済と年金機構で異なる取り扱いが行われるのはおかしいと思います」

 一刻も早く取り扱いを統一してほしいものだ。(編集部・首藤由之)

AERA 2023年6月26日号

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