作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。
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6月10日、ラジオ「生活は踊る」のイベントで福岡に行ってきました。楽しかった!
コロナが始まる前の仙台、昨年の東京、今年3月の札幌に続いて4カ所目です。今回も500名を超えるリスナーさんに集まっていただき、またとない時間を過ごすことができました。ありがとうございました。
実は、仙台でも札幌でも福岡でも、「生活は踊る」をラジオで聴くことはできません。おしゃべりだけならポッドキャストやラジオクラウドから無料で、BGMやオンエア曲まで放送と同じものを聴くなら、ラジコというアプリをダウンロードし、プレミアムのエリアフリーで課金しないと聴けません。
エリア外のラジオを有料で聴く、という選択。意外にも多くの人がしています。10年前までは違法アップロードを聴くしかなかったので、ラジオ局にとっても熱心なリスナーにとっても良いことです。
と同時に、マスメディアに対するユーザー意識の変革に驚きを隠せません。「機械さえあれば電波が届く範囲のものは無料」だったラジオは、「スマホでいつでも好きな時にどんな場所の番組も課金すればたいてい聴ける」になって10年も経っている。テレビでは2015年にTVerがスタートし、地方局のバラエティー番組を観ることもできます。通信販売と同じくお金さえ払えば、「好き」は地域の制約なく手に入るのが現代です。
無料で楽しめるものがたくさんあるのに、エリア外のラジオやテレビ番組に課金してくれる人がいる。正直、私はこの事実にどう真摯に向き合えばよいか考えあぐねています。
東京といっても、ラジオでは「いちローカル」。エリア外のリスナーにおもねらない現行の内容が喜ばれているのかもしれないし、もう少しエリアを意識させない内容にしたほうがもっと喜んでもらえるのかもしれないし、いったいどっちなんだろう。
「生活は踊る」が全国放送になればよいという話でもありません。「いちローカル」は大事な個性のひとつだもの。「あそこでしか買えないパン」が、コンビニでいつでも買えたら魅力半減です。
エリア外リスナーは、これからも少しずつ増えていくでしょう。その先を見据えた生活情報番組づくりをどうしていくか、そろそろブレストでもやりたいな。
○じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中
※AERA 2023年6月26日号