広島で開催されたG7サミット。ウクライナのゼレンスキー大統領が出席し、G7の首脳らと議論した=5月21日(写真:ロイター/アフロ)
広島で開催されたG7サミット。ウクライナのゼレンスキー大統領が出席し、G7の首脳らと議論した=5月21日(写真:ロイター/アフロ)
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 ウクライナ戦争で世界の分断が進むなか、開催されたG7広島サミット。ウクライナ戦争について、G7とグローバルサウスが足並みをそろえることも焦点の一つだった。だが、G7とウクライナとの仲を深めるだけの結果に終わった。グローバルサウスと連携を強化するための議論として、足りなかった視点は何か。同志社大学大学院准教授・三牧聖子さんに聞いた。AERA 2023年6月19日号の記事を紹介する。

【図表】各政府がウクライナに約束した軍事的、財政的、人道的援助はこちら

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 ロシアによるウクライナ侵攻以降、日本外交で改めて強調されるようになった概念がある。「法の支配」だ。G7広島サミットでも目的の一つとして大々的に掲げられた。その含意は、武力による一方的な現状変更は認めないということだ。

 ウクライナ侵攻は、2度の凄惨な世界大戦を経て人類が発展させてきた領土保全の原則に大きな挑戦を突きつけた。今月2日、ブリンケン米国務長官は、フィンランドのヘルシンキで演説を行い、ウクライナ領の一部をロシアが占領した状態での停戦を改めて否定した。ウクライナ戦争の仲介役を自認する中国が、ロシアによる占領を容認する形で、即時停戦を提案していることへの牽制の意図もこめられた発言だった。また、演説の場としてNATOに正式加盟したばかりのフィンランドが選ばれたのは、ロシアの侵攻がいかにヨーロッパ政治を変えたかを印象付ける狙いがあったとみられる。

三牧聖子(みまき・せいこ)/東京大学教養学部卒。同大大学院総合文化研究科で博士号取得(学術)。米国ハーバード大学研究員などを経て現職
三牧聖子(みまき・せいこ)/東京大学教養学部卒。同大大学院総合文化研究科で博士号取得(学術)。米国ハーバード大学研究員などを経て現職

 ロシアによる武力を通じた一方的な現状変更は許されてはならない。これは日本やG7諸国にとどまらず、およそすべての国家に共通した願いであるはずだ。しかしウクライナ戦争について、G7と、グローバルサウスと呼ばれる主に南半球の新興国は歩調をあわせられていない。これらの国々は、ロシアの侵攻を非難しつつも、制裁に加わらない「非同盟」の立場を貫いている。これらの国々は、「法の支配」に関心がないということなのだろうか。

 そのような考えは先進国のおごりだろう。我らこそが「法の支配」の擁護者であるといわんばかりのG7の態度に、グローバルサウス諸国は欺瞞も感じ取っている。広島サミットに電撃参加したウクライナのゼレンスキー大統領は、G7首脳のみならず、インドのモディ首相などとも会談したが、グローバルサウスの重要な一角を占めるブラジルのルラ大統領との会談は実現しなかった。ルラ大統領はサミット後の記者会見で、「ウクライナとロシアの戦争のために来たわけではない」と持論を展開した。そこには歴史に根ざした根強い対米不信がある。ラテンアメリカ諸国は、アメリカから度重なる軍事的・経済的な介入や支配を受け続けてきた。単に利害打算の観点のみならず、そうした歴史的な経験ゆえに、ロシアの行動を明らかな国際法違反として批判しつつも、「非同盟」の立場を貫いている。ベトナムのファム・ミン・チン首相も、サミット拡大会合で「ベトナムはどちらか一方を選ぶのではなく、正義と平等を選択する」と強調し、あくまで対話を通じた紛争解決を追求すべきだとした。

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