AERA 2023年6月19日号より
AERA 2023年6月19日号より

■欠けていた議論は

 戦争が長期化する中、食糧・エネルギー危機が進行し、先進国の庶民も苦しんでいるが、途上国では現実に人々の命が脅かされる事態になってきた。「法の支配」は大事だ、しかしその危機はウクライナだけで起きているわけではないし、命の危機は戦場だけにあるわけではない。これが新興国で必死で生きる人々の率直な想いだろう。貧困や飢餓の撲滅に向けて活動する国際NGOオックスファムは、G7サミットで途上国の食糧危機や債務危機の解決に向けた実質的なアクションがほとんど打ち出されなかったとして、グローバルサウス諸国から見れば失敗のサミットだったとしている。

 当初、岸田首相はアジアで唯一のG7メンバー国として、G7と新興国との「架け橋」となる意欲を語っていた。確かに広島サミットは、G7諸国同士、G7とウクライナとの団結を深めるものではあったが、ウクライナ戦争をめぐる先進国と途上国との分断の解消や、グローバルな平和に向けた諸問題にどれだけ貢献するものだったかは疑問符がつく。自国開催のサミットの成功に沸く日本だが、どのような議論が欠けていたのか、誰の視点から見た平和が語られなかったのか、冷静に検討すべき時期ではないか。(寄稿)

AERA 2023年6月19日号