養老孟司(ようろう・たけし)/1937年生まれ。近著に『ものがわかるということ』(祥伝社)
養老孟司(ようろう・たけし)/1937年生まれ。近著に『ものがわかるということ』(祥伝社)
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 1988年5月の創刊から、AERAは今号で35周年を迎えた。35年前と現在では、社会も人々の生活も大きく変わった。これから先、35年先の未来には何が待ち受けるのか。解剖学者・東京大学名誉教授・養老孟司さんが語る。AERA 2023年5月29日号から。

【グラフ】35年後の日本の人口はどうなる?

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 長い歴史を見ると、日本の社会を根本から動かしてきたものは、天災ではないか。最近、そう考えるようになりました。

 たとえば今から100年前、1923年の関東大震災の後、大正デモクラシーの雰囲気が消え、田中義一の軍事内閣が成立しています。さらに遡れば、1853年のペリー来航の翌年以降、東南海地震と首都直下地震が併発する「安政の大地震」が起こります。平安時代も源平合戦後、武家政治に転換しますが、ここでも地震がありました。鴨長明の「方丈記」に東南海で大地震が起こり、京都でも地震が半年続いたと書かれています。

 一般には黒船来航が明治維新に進む契機とされ、地震はほとんど表には出てきません。ですが、僕は災害により、その後何年にもわたり人々の日常生活が大きく変わったことが、社会を変容させたと考えています。

 では、今後起こるだろう社会を変えうるほどの大災害は何かというと、南海トラフ地震でしょう。ある専門家は2038年と予測しています。もし安政のように、首都圏直下型地震も同時に起これば、あるいは富士山噴火も起これば、多くの人々の日常生活が変わらざるを得なくなります。

 防災面での対策は各所で進んでいます。しかし、その後、人々の生活や社会をどう再構築するかという議論は、ほとんど聞いたことがありません。

 効率化で進んだ首都圏への一極集中は、天災時は最悪です。物流が断たれ、人々の食料とエネルギーの確保が困難になります。復興には莫大な資金が必要です。がれきなど大量に出る「災害ごみ」の処理も問題です。

 僕は日本の地域は比較的小さく分割し、自給自足に近い暮らしをするようになると予想しています。内田樹さんがかつて「廃県置藩(はいけんちはん)」と言ったように、藩ぐらいの単位です。これは現実的に動かせる社会でもあります。現代社会では見失いがちな自分の役割がはっきりします。他人も役割を果たしてくれないと困るという状況にたやすくなるし、したがって人と仲良くせざるを得ない。

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