相続では、それまで想像していなかったトラブルや支障も起きる。経済アナリスト・森永卓郎さんに経験談とアドバイスを聞いた。AERA 2023年5月22日号の記事を紹介する。
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父親を亡くしたときの相続体験を「地獄の作業でした」と振り返るのは経済アナリストの森永卓郎さんだ。
「本当に何も分からなかったんですよ」
父親が亡くなったのは2011年3月の東日本大震災の直後。母親が亡くなった後は森永さんの自宅で約10年間同居し、亡くなるまでの約1年間は介護施設に入居した。支出は施設利用料と生活費を含め月約40万円。父親の口座残高はみるみる減り、底を突きそうになった。
森永さんが「どうするの?」と聞くと、父親は「(他に)預金も株もあるから大丈夫」と答えた。ところが、口座や通帳がどこにあるのか尋ねても、「分からねえな」の一点張り。結局、森永さんが立て替えた。それでも相続に関しては楽観していた。いざというときは父親が利用していた銀行の貸金庫を森永さんが引き出せるよう登録をしていたからだ。
「それで安心しちゃったのが大きな間違いでした」
預金通帳や証券類はすべて金庫内に保存してあるはず。そう考え、中身は確認していなかった。父親が亡くなった後、貸金庫を開けた森永さんは凍り付いた。
「大学の卒業証書や記念コインなど父親の思い出の品しか入っていなかったんです」
手掛かりは、未開封のまま実家に保管していた父親宛ての過去1年分ほどの郵便物の山しかなかった。この中から、金融機関の通知を探し出して口座を特定した。確認できたのは計10口前後。元毎日新聞記者で転勤の多かった父親の過去の戸籍謄本をすべてそろえるなど、苦労して開示してもらった口座の残高が「700円」だったことも。生命保険契約やネット銀行、ネット証券の口座確認は断念した。森永さんは言う。
「日本には金融機関が計500ほどあります。期限内にすべてに当たるのは不可能ですから資産リストは絶対に必要です」
■立ちはだかる壁
相続税の申告・納付期限は10カ月。すべて自力で処理しようとした森永さんに立ちはだかったのは父親名義のマンションの駐車場だった。