とはいえ、人工栄養法を否定しているわけではないという。
「もし家族が『もうちょっとこの世にいてください。私たちはあなたがいることで少しは気が治まるのでそばにいてください』という気持ちが強いのであれば、延命するのもひとつの手かもしれません。残された家族の心が少しでも満たされるのであれば。ただ過度な点滴などで患者本人が苦しんでいたら、そのときは考えなければならないでしょう」
「元気がでる介護研究所」代表で、介護アドバイザーの高口光子さんは話す。
「70年、80年生きてきた人の人生の展開とか命の終わり方なんて誰もわからない。経管栄養をしたからこれぐらい延命できます、なんて説明するのも無理な話。それよりも、今日一日のその人の輝きを大切に。そういうことが大事なのではないでしょうか」
今回、私が母にした延命の判断について、おそらく私はこの後の人生で何度も思い起こしては胸を痛めることになると思う。でも、死ぬ瞬間は一度きり。悔いのない逝き方を考え、旅立ちも、残された人の心も穏やかなものでありたい。(大崎百紀)
※週刊朝日 2023年6月2日号より抜粋