糞尿を肥料として畑に撒(ま)いて野菜を育て、出来あがった作物が人の口に入ってまた糞尿に。
「そんな循環の事例を知り、だったら(映画化)できると思った。低い視座から、しかも汚いところから社会を眺める映画なら。SDGsは誰一人残すことなく貧困から救うのが理念のはずだから」
まずパイロット版を作り、長編の目途がついた時点でストーリーを遡(さかのぼ)って脚本を書いた。
「コロナ禍というパンデミックのただ中での作業だった。ディストピアの中で脚本を仕上げていったんです。世界が直面している問題をどう克服していくか。誰もがそんなことを思う環境から『世界』という言葉が浮かんだ」
『せかいのおきく』は幕末の物語である。
「ペリーの黒船が来たり、安政の大獄があったり、桜田門外の変が起こった。そして、そんな時代に『世界』はもちろん、『青春』や『宇宙』という言葉もあった」
おきく、中次、矢亮、三人の清々しさに胸を打たれた。『せかいのおきく』はコロナが収束しつつある今こそ多くの人に見てもらいたい。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中
※週刊朝日 2023年5月26日号