日本のスタートアップエコシステムはここ20年ほどで劇的な進化を遂げてきた。いってみれば「仕込みの期間」が終わってこれから成長の時代がはじまることが期待できる。2022年に入ってロシアの戦争や世界経済におけるアメリカとEUの利上げにともなってVC市場に流れ込むグローバルマネーが減り、株式市場の低迷によってスタートアップの大型IPOなどから望めるリターンが減ったことで世界全体のVC市場とさまざまなスタートアップエコシステムは数年前に比べたらスローダウンしている。日本もその影響を受けているが、日本のスタートアップエコシステムの基盤はだいぶできあがっていて、それぞれのコンポーネントは好循環スパイラルが生まれはじめている。
そもそも現在の日本経済モデルは日本の高度経済成長期にできあがった。「戦後日本の政治経済モデル」とその成功は、シリコンバレー的なスタートアップエコシステムとは真逆だった。日本の高度経済成長モデルは製造業などにおける強みによって、1970年代のオイルショック後から1980年代にかけて、日本企業が世界のディスラプターとなり、シリコンバレーの半導体産業にも大きな脅威となった。
しかし、その後、シリコンバレー企業による価値の作り方がソフトウエアやプラットフォーム、及び外注委託生産などに大きく変わったことにより日本企業は競争優位を失った。終身雇用制度などにより大胆な方向の転換ができない日本企業はバブル崩壊にも見舞われて新しい大規模な投資もなかなか行えず、アジャストに時間がかかった。
櫛田健児
カーネギー国際平和財団シニアフェロー。シリコンバレーと日本を結ぶJapan-Silicon Valley Innovation Initiative@Carnegieプロジェクトリーダー。キヤノングローバル戦略研究所インターナショナルリサーチフェロー。東京財団政策研究所主席研究員。スタンフォード大学非常勤講師(2022年春学期、2023年冬学期)。1978年生まれ、日本育ち。スタンフォード大学で経済学、東アジア研究それぞれの学士号、東アジア研究の修士号修了。カリフォルニア大学バークレー校政治学博士号修了。スタンフォード大学アジア太平洋研究所でポスドク修了、リサーチアソシエイト、リサーチスカラーを務めた。2022年1月から現職。主な研究と活動のテーマは、(1)Global Japan, Innovative Japan、(2)シリコンバレーのエコシステムとイノベーション、(3)日本企業のシリコンバレー活用、グローバル活躍、DX、(4)日本の政治経済システムの変貌やスタートアップエコシスムの発展、(5)アメリカの政治社会的分断の日本への紹介など。学術論文、一般向け書籍やメディア記事、書籍を多数出版。