■安全なリハには運動処方が必要
とはいえ、心不全の人が「よし、筋肉を鍛えよう!」とやみくもに動いてしまうと、それこそ心停止となりかねない。
そこで、その人の心肺機能や全身状態から、どこまで心拍を上げるのが適正か、これ以上上げてはいけないラインはどこなのかを、「心肺運動負荷」という検査でチェックする。患者は主治医から運動療法の処方箋(せん)(=運動処方)をもらい、それにしたがって安全に、かつ効果的に筋肉を鍛えるのが心臓リハだ。
同院の心臓リハの対象は、心臓の手術を受けた患者全員。あるいは心不全の治療を受けている患者だ。本人が希望する場合に限られるが、入院時から始めて、退院後も最長150日間は保険診療の範囲で受けることができる。その後は自費で続けることも可能だ。リハビリテーション科長で理学療法士の堀健太郎さんが話す。
「当院では心臓の手術をしてICU(集中治療室)にいるときから可能な範囲で体を動かします。ベッドの上でも、ドレーン(術後に一時的に入れる排液用の管)や人工呼吸器を装着していても、ストレッチや手足の体操などをしていきます」
心臓リハで筋力を付け、心臓の負担を減らすことがなぜいいのだろうか。磯部医師が言う。
「心臓の機能が回復し、急性増悪を予防することができる。つまり、二次予防(病気になった人がさらに悪化しないための予防)のためのリハビリなのです」
まだ同院のように積極的に心臓リハを取り入れている施設は少ない。興味がある人はどうすればいいか。磯部医師は言う。
「まずは安全にリハビリをするために、主治医に運動処方を作ってもらいましょう。それを持ってスポーツジムなどに行くことをお勧めします。例えば、当院と提携しているスポーツジムでは、心疾患について教育を受けたインストラクターがいるなど、高齢者が安全に体を動かせる環境が徐々に整いつつあります」
(ライター・山内リカ)
※週刊朝日 2023年5月26日号より抜粋