中部地方在住の岡田陽子さん(仮名、79歳)が突然、胸の違和感に襲われたのは、昨年6月のことだった。
「心臓がバクバクして息苦しくなったと思ったら、グワーッと体が熱くなって目の前が真っ暗に」
2~3歩進んだところで意識がなくなった。その直前、「このまま死ぬかもしれない」と思ったという。
同居する家族の通報で救急搬送された後、病院で応急処置を施され、2日後にペースメーカーを体内に埋め込む手術を受けた。ペースメーカーというのは、電気信号を送ることで心臓の拍動を助ける医療機器だ。
術後に聞いた病名は「完全房室ブロック」という不整脈の一種。医師からは「この状態で助かったのはすごい。多くの人は亡くなっている」と聞かされた。
実は陽子さん、10年ほど前に不整脈と診断され、内科的な治療(アブレーション)を受けていた。以来、定期的に医師に診てもらっていたのだが──。陽子さんは言う。
「毎回、『正常』って言われていたので、大丈夫だと思っていた。心臓以外は健康そのものだったから、過信していた」
心臓は血液を全身に届けるポンプの役割がある。そのポンプ機能が低下した状態を「心不全」という。具体的にはどういう状態をいうのか。
日本循環器学会と日本心不全学会は、「心臓の機能が悪いために、息切れやむくみが起こり、年とともにだんだん悪くなって、生命を縮める病気」と定義している。
心臓の加齢現象ともいえる心不全になる人は、高齢化が進むに伴い増えている。心不全の原因となる高血圧も、血管の加齢現象である動脈硬化によって起こるため、増加を後押ししている。
近年のめざましい医療技術の進歩も増やす要因の一つとなっている。神戸市立医療センター中央市民病院院長の木原康樹医師は言う。
「かつては助からなかった心筋梗塞(こうそく)や狭心症、不整脈や心臓弁膜症といった病気が、手術や内科的な処置で救命できるようになった。例えば、急性心筋梗塞は3人に1人が死ぬ病気だったが、今では死亡率が3%。10分の1に減っている」
ただ、心臓を患って治療しても心臓の筋肉(心筋)は再生しない。つまり、残った心筋を駆使して全身に血液を送らなければならないため、当然、心不全になりやすくなる。
「高齢者の病気というと、認知症やがんなどのイメージがあって、心不全といわれてもピンとこない。しかし、心不全の5年生存率は50%程度です。その予後をのばすためにも病気について正しく知って、“心臓をいたわる”ことが大事です」(木原医師)