榊原記念病院の心臓リハビリテーション室。日光が当たって明るくジムのよう(筆者撮影、協力:榊原記念病院)
榊原記念病院の心臓リハビリテーション室。日光が当たって明るくジムのよう(筆者撮影、協力:榊原記念病院)

 慢性心不全(ゆっくりと心不全が進行していく状態)は、専門病院と地域のかかりつけ医との病診連携が重要になる。広島県ではそうした連携を10年ほど前に始めた。「心臓いきいき推進事業」として広島大学病院の心不全センターを中心に、県内七つの「心臓いきいきセンター」がハブとなり、地域のクリニックと連携して患者を支えている。

 この事業を始める前後で心不全患者の入院日数、在院日数を比べると、後者は半分以下になり、医療費も大幅に減った。

「心不全の急性増悪では入院が必要になるだけでなく、患者さんの命が短くなっていく。急性増悪を起こさせないことが心不全のカギとなる。広島県のような取り組みを全国に広げていくのが課題です」(同)

 一方、心不全に対する「心臓リハビリテーション(心臓リハ)」というリハビリが注目されている。日本でいち早く取り入れた榊原記念病院(東京都府中市)を取材した。

携帯型のモニタリング装置。患者の心電図波形や心拍数がわかる(筆者撮影、協力:榊原記念病院)
携帯型のモニタリング装置。患者の心電図波形や心拍数がわかる(筆者撮影、協力:榊原記念病院)

 同院の心臓リハビリテーション室は病院入り口のすぐ横にある。大きな窓から庭が一望できる明るい室内で、心不全患者が自転車エルゴメーターをこいだり、ストレッチをしたりしている。トレーニングウェアに汗をにじませながら体を動かすその光景は、スポーツジムと何ら変わらない。違うのはスタッフが看護師や理学療法士といった医療従事者であることくらいだろう。

 院長の磯部光章医師は心臓リハの効果について、「手術や薬は医者が主体。患者さんに選択権はあるけれど、基本的に受け身です。でも、心臓リハは患者さんが能動的に参加しないと成立しない。元気になる“なり方”が全然違うんです」と話す。

 同院では運動や食事、投薬・生活指導、就業支援からなる包括的なリハビリをしている(今回の記事では運動に焦点をあて、心臓リハ=運動リハとします)。

 磯部医師が説明する。

「心臓リハは“心臓を強くするためのリハビリ”ではありません。むしろ、弱った心臓に負荷をかけないようにするためのリハビリです」

 脳卒中や整形外科的な病気の治療後にする一般的なリハビリと異なるのは、“機能回復が目的ではない”点だ。繰り返すが、心筋は再生できないだけでなく、手足の筋肉のように鍛えることもできない。磯部医師によると、心臓のポンプ機能を助けるのが全身の筋肉(骨格筋)だという。

「例えば、ふくらはぎは“第二の心臓”と呼ばれていますが、足の筋肉がしっかり収縮することで、血液を心臓に押し戻してくれます。ほかの筋肉も同じです。実際、坂道や階段を上ったときに筋力があるのとないのとでは、心拍数の上がり方が全然違います」

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