大友良英という人は『あまちゃん』の音楽をつくった人だ。やさしい声でニコニコしていて、感じ良さそうで、おまけに『あまちゃん』なので、親しみやすい作曲家なのかと思うとそうはいかない。相当聞きづらい音を発してたりする。言ってることも、けっこうキツかったりする。
この『学校で教えてくれない音楽』は、文字通り「学校の音楽の時間に教えてもらったのではないところで、音楽をやっている」人たちが、どのようにして音楽に向き合って音楽を創りだしているのか、が書かれている。
大友さんが、いろいろなミュージシャンと語る。大熊ワタル、上原なな江、さや(テニスコーツ)、Phew。たまたま私が知っている人たちもいて、どういう音なのかがわかっているだけに(けっこうすごい、というか今どきの流行りとは隔絶されたところにある音だったりする)、これ、知らない読者はどうなんだろうと面白半分で読んでいた。ところが後半、知的障がい者とその家族とアーティストによる即興音楽をしている沼田里衣との対話、そして地域の子供たちと集団で即興するワークショップをしている雨森信との対話があり、奏でられた音楽をまったく知らないのに、その聞いたことのない音楽が頭の中にわんわんと奏でられてとまらなくなった。そしてその音楽の実物を聞きたくてたまらなくなる。
文章に書かれた音楽だ。美しいとか、へんだとか、形容詞で表現されるのではない。障がいをもつ娘が弾くピアノを、もじもじしながら聞いているお父さん、というような情景の描写があり、それがさらに音を頭の中で鳴り響かせていく。
音楽の本は、音が聞こえなくてつまらないと思う方は、この本を読んでみて、「学校で教えてくれない音楽」を頭の中に溢れさせてみてほしい。それはすごく面白い体験だ。そして次に、本物の音に触れて衝撃を受けるのはもっと面白い体験だ。
※週刊朝日 2015年2月13日号