依存症と聞くと、アルコールやギャンブルやドラッグに淫してしまった人々をつい連想する。健康や家計を損なうと知りつつ何かに取り憑かれたように飲み、賭け、吸いつづける陰惨な日々。最近では危険ドラッグが注目されているが、私たちがつい「病みつき」になってしまう対象はもっと多様化している。
 デイミアン・トンプソンの『依存症ビジネス』によれば、21世紀になってから〈気分を向上させたいときはいつでも、自分に報酬、すなわち「ごほうび」を与えるという習慣がますます強まった〉ため、私たちは〈すぐに気分をよくしてくれるもの=フィックス〉に手を出してしまうようになったらしい。このトレンドを企業が放っておくはずはなく、砂糖まみれのカップケーキ、iPhone、鎮痛剤、オンラインゲーム、危険ドラッグ、オンラインポルノ、SNSなどがフィックスとなって人々の前に現れ、結果、誰もが依存症に陥りかねない社会に生きている。そして私たちは、意識的か無意識的かはともかく、自分のフィックスを選択する。環境と選択。依存症は病ではなく習慣なのだと著者が説く理由も、そこにある。
 視点をかえれば、多くの人を依存症にするビジネスが今世紀になって成長していることになる。フィックスを入手しやすくする工夫をはじめ、彼らは脳科学の知見まで投入して、人々の「欲しい」という衝動を喚起しつづける。〈新たな世代の製造企業は、フィックスを求める顧客の目的が何であるのかを推測する必要はない──それは、もう「わかっている」のだ〉
 ならば消費者側はどうすればいいのか? 依存症が自発的に選択した習慣だとするなら、自分のフィックスを「欲しい」と感じた原因と対峙するしかないだろう。不安、ストレス、退屈……自分に取り憑いているものの正体を知れば、企業側の仕掛けに気づいてそのフィックスを遠ざけることができる、かも……依存症ビジネスの周到さを知ると、とても断言はできない。

週刊朝日 2015年2月13日号

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