■100年前と共通する生きづらさ
この小説を通じて感じていただきたいのは、100年前の物語ですけれども、女性が生きづらく感じている様々なことが現在と多くが共通するということですね。
李方子さんに関しては、子供を産まなければいけない苦しみだったり、二国関係に引き裂かれる思いがあったりしたことなどが現在もみられることです。日韓のカップルにかかわらず、韓国のカルチャーが好きでもヘイトスピーチを見てしまったら凄く辛い気持ちになったりします。
そこは日本と韓国のあいだで苦しむという点で通底しているところがあるということを感じ取っていただきたいです。また、関東大震災の時に起きた悲劇のことも、改めてきちんとどういうことがあったかということを物語に残すことで、そういうことがなかったと軽んじていくような風潮に対して、そうではないという私なりの思いを込めて書いています。
■人間を生かしていくもの
マサという人物も、孤独で家族の縁が薄いのですが、一緒に生きた人との絆があることで、生きていく力を得ています。国の繋がりとか、血の繋がりとか、そういう背景がなくても、人と人との間にある心の行き交いが人間を生かしていくんだなっていうことを描きたかったので、それを感じ取っていただけると嬉しいです。
女性同志のつながりだったり、男性との恋愛、それから家族、いろんな関係があると思いますが、属性とか地位とかに関わらず、誰かが側で寄り添っているということが、その人をとても強くするし、心を穏やかにする。そして、救いにもなるということを描きたかったです。
私は今年で作家になって11年目に入って、この小説自体は13冊目の小説です。自分には在日コリアンというルーツがあるからか、越境している人だったり、故郷から離れざるを得なくて、生きている人のお話を書くことが多いです。
それから、自分が望む望まざるに関わらずマイノリティという属性とされる人々のことも小説の中で描いてきました。特に自分が女性という立場ということもあって、女性の生きづらさ、そこにさらにマイノリティの生きづらさというのも、描ければいいなと思って、いくつかの小説を書いてきました。
とはいえいろんな題材を書いています。ただ、共通しているのは、どんな人生も生き方も肯定していきたいなという思いです。
■生き方が積極的に選択できないという状況
ラブストーリーでもあるし、歴史小説でもありますし、女性の物語でもありますし、男性の生きづらさももちろん描かれているんですね。朝鮮王朝や当時の日本の皇族の話もかなり詳しく調べて書きました。
立場的に国家に翻弄されたり、生き方が自分で積極的に選択できないというような状況が細かく描かれています。そういう立場の人というのは今でもいらっしゃると思いますし、そういう人たちへの世の中の眼差しがどうであったかとか。朝鮮王朝の人々とか、皇族の方々とか、それから普通の市民の視点も出てきますけれども、過去を舞台にした、ダイナミックであり、かつ身近で低い視点のお話も描かれていますので、ぜひ読んでいただきたいです。
とても長いと思われるかもしれないですけど、読みやすくなる工夫をたくさんしてありますので、一気に読めてしまうと思います。
自分たちが知りえない当時の王族の結婚式とか、華やかな場面もありますので、物語だけではなく、ディテイルも楽しめると思います。
ぜひぜひお読みください。
(書籍編集部・牧野輝也)