のちの昭和天皇の最有力妃候補と言われながら、自身と李王朝皇太子との婚約を新聞の紙面で初めて知った梨本宮方子……。
皇族でありながら、政策によって李王朝に嫁いだ方子王妃の数奇な運命を縦糸に、また半島から来た独立運動家と恋に落ち社会から転落していく女性・マサを横糸に、大正・昭和の日本と朝鮮半島を舞台に描いた大河小説『李の花は散っても』。
著者である深沢潮さんに聞いた、小説を書こうとした理由と登場人物への思いを、動画とともにお届けする。
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本作『李の花は散っても』は、大正時代から太平洋戦争、朝鮮戦争を経て、昭和が終わるまでの時代背景の中で生きてきた2人の女性の物語です。1人は皇族で元宮家の長女であった方子さんという方、もう1人は身寄りがなく、孤独に生きてきたマサという女性です。
■本人の了解もなく結婚をさせられた
方子さんは日本に併合された朝鮮の王朝の、日本の皇族に準じる身分であった名目上の皇太子・李垠と、日本と朝鮮を1つにしていこうという考え方に連なる政略によって本人の了解もなく結婚をさせられました。物語はその結婚が決まってから人生を終えるまでを描いています。
そして、もう1人のマサは、日本人妻として描いています。当時朝鮮から結構多くの人が留学に来ていたんですね。そしてマサは留学生の金南漢という男性に恋をして朝鮮に渡っていきます。朝鮮には日本からも植民も含めてたくさんの人が渡っていきました。
金南漢が独立運動をしていたので、マサは正式に結婚はできませんでした。心が揺れながら、祖国日本を懐かしむという気持ちと、それから金南漢の志と、人間を愛するという気持ちに引き裂かれながらマサは生きていきます。
この小説はそんな方子さんとマサ、2人の人生を描いています。
■李方子さんに興味をもった、父親の出自
書こうと思った理由はいくつかのあるんですが、朝日新聞出版で出させていただいた『ひとかどの父へ』という小説が刊行になった後に、担当の編集者の方から、次は評伝を書いてみたらどうですかというお申し出をいただいて、書くなら誰がいいかと考えていた時に、李方子さんがいいのではと思い至りました。
李方子さんが結婚された李垠さんの家系、朝鮮王朝の李家の、とっても遠い系統なのですが、私の父親も、全州李氏という、つまり本貫というんですけれども、その家系に連なっていたので、すごく親しみがあったんですね。
それを聞いたのはわりあい最近なんです。ソウルには何度も遊びに行っているのですが、それまであまり王宮など興味がなかったのに、数年前に父の出自を聞いて興味を持ってから王宮にも観光に行くようになりました。ガイドさんから李方子さんという人がいると聞いて、ああそうか、そんな人がいたのかと調べ始めて、すごく親近感を覚えるようになりました。そして、波瀾万丈な人生だということを知り、これはぜひ書きたいなと思いました。
もう1人の女性のマサは、小説を書いている中で、出来上がってきました。