「世帯年収が910万円以上の世帯の保護者(以下、親)は大卒で、安定した職業に就いている可能性が高いので、社会的、経済的、文化的な特性を統合した概念である社会経済的地位(Socioeconomic status、以下SES)が高いと考えられます。SESが高い家庭は、子どもが小さい頃から大学進学を前提とした子育てをする傾向にあり、私立校の授業料無償化で高校の選択肢が増えることを歓迎すると思われます」
そのうえで、こう指摘する。
「その中でも、教育熱心ではあるけれど経済的な余裕があまりないSESの中上位層が、大学進学実績のある私立校を受験するようになる可能性があります。また、私立中高一貫校の6年間の授業料の支払いは難しくても中学3年分であれば負担できる比較的社会経済的に恵まれた層が、中学受験を選択するのではないでしょうか」
松岡准教授によれば、教育格差とは「SESや出身地域といった、子ども自身に変更できない所与条件である『生まれ』によって、学力や最終学歴といった結果に差がある傾向のこと」だという。SESの重要な構成要素の一つである親の最終学歴を例とすると、父親の最終学歴が大卒の場合、子どもも大卒になる傾向がすべての世代で確認されてきたという。
大阪府戦略本部会議の資料に目を通すと、「所得や世帯の子どもの人数に制限なく、自らの可能性を追求できる社会の実現」と記述されている。これに対して、松岡准教授は「すべてのSESの家庭が同じように学校選択するのではなく、社会経済的に恵まれた家庭が積極的に選択肢を検討して実際に私立を選ぶという傾向が見られることになっても不思議ではありません」と指摘する。
「『自由に学校選択』を実質的に支援するためには、小中学生の段階で出身家庭のSESによる学力と大学進学意欲の格差を縮小する政策が求められます。義務教育の強化は、高校に進学しない層や少なくない高校中退層への支援にもなります」