今回注目の的の一つとなった大阪公立大学などの授業料や入学料の無償化については、松岡准教授はどう受け止めているのだろうか。

「公立大学などの授業料・入学料の無償化についても、大学進学に価値を置くけれど経済的に余裕が大きいわけではないSESの中上位層が無償となった大学を受験するようになると考えられます。大学受験は座席数の決まった相対的な競争なので、比較的恵まれた家庭のSESを背景にして学力が高い層が積極的に公立大学を受験するようになれば、現在無償化対象の低所得層が不合格になることもあり得ます。今後データを取得して低所得層の合格者が大きく減るようなことになるのであれば、米国の大学でも行っているように、低所得層に一定数の合格枠を設けるアファーマティブ・アクション(積極的是正措置)を検討すべきかと思います」

■教育格差の縮小に繋がり得る

 一方で、松岡准教授は無償化の方向性そのものは教育格差の縮小に繋がり得るという。

「長期的には、高校や公立大学などの授業料が無償だということが常識として広まることで、経済的な理由で大学進学を選択肢から外す小中学生が今後減っていくかもしれません。義務教育への投資増と合わせることで、長期的にはSESによる教育格差を縮小する政策と評価される日が来る可能性はあると思います」

 そのうえで、「このような新しい政策については賛否を議論するだけではなく、中長期的に多角的なデータを取得する体制を整備する必要がある」という。

「日本の教育政策は基本的にやりっ放しで、まっとうな効果検証はほとんど行われていません。今回の政策について実際にどのような結果になったのかという知見を積み上げることができれば、それは大阪府だけではなく社会全体の財産になります」

 教育業界の関係者からは「大阪府だけ完全無償化することで、ほかの地域とのあいだで教育格差は生まれないのか」という声もある。松岡准教授が解説する。

「子どもは生まれ育つ自治体を選べません。高校を義務教育にして、国が自治体間の格差を積極的に縮小する政策を採用することは一つの選択肢です。ただ、教育制度を大きく変えることになるので、社会全体で議論が盛り上がらないと実現は難しいと思います。まずは家庭間や自治体間に様々な教育の機会と結果の格差があるという実態を議論の前提にする必要があります。一人でも多くの人が教育格差の実態と向き合ったうえで、個々の教育政策が自分の家庭にとって短期的に得かどうかだけではなく、中長期的に社会全体にとって望ましい教育制度の在り方について議論するようになることを願っています」

(AERA dot.編集部・板垣聡旨)

【訂正】「高校授業料が無料となるのは、私立高校の場合、世帯年収560万円未満の世帯のみ」とあったのは、「世帯年収590万円未満」の誤りだったため、訂正しました(20日14時22分)。

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