そんな壮絶な話も、村井さんの手にかかれば深刻でありつつどこかカラッとした明るさが感じられる。ワンオペ育児、義父母の介護、自身の入院などなど、大変なことの連続の中で、自分を俯瞰する冷静さもある。特に、学校との付き合い方のルールは育児をしていない人にも大いに参考になるだろう。(1)感情的にならない (2)言いふらさない (3)口を出さない (4)経緯をまとめ、メモを残しておく。中でも(4)は村井さん自身も一番大事だと言っている。

「何か大きな問題になるかもって時は時系列で残すことです。感情的になると絶対バカにされるし、誰も話を聞いてくれなくなる。その時点でアウトです。それに、親と学校がもめるのは子どもにとって重荷でしかないですから」

 書くことで冷静になり、ことの本質が見えてくる。それはあらゆる人に有効な処世術だろうし、感情的になることは身内には時には必要だが、公的な場面においてはそうでないほうが物事を上手く運べるということも然りだ。

 帯にも書いてあるが、子どもを産む前も後も、同じ「私」なのだ。子どもを産んだから自動的に母にはならないし、ましてや、すべての母が同じではない。一人一人がまったく違う大変さを抱えている。だから村井さんは言うのだ、「自分を手放さないで」と。

「どんな育児も家庭によってそれぞれだから、自分の経験を押しつけないようにしています」

 そんな村井さんの言葉だからこそ、子育てをしている、していないにかかわらず、すべての人の心に届くのだろう。(ライター・濱野奈美子)

AERA 2023年5月22日号

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