翌日、病院で事務総長にこのことを話すと、彼は冷静でした。いい話かもしれないが、クリニックを開設するとなると、内装工事だって必要だし、運転資金も用意しなければならない。これは相当な額になる。そんなお金は病院にはありませんと言うのです。

 さあ、困りました。別れる時の会長さんの喜びようを思うと、いまさら断ることなどできません。この窮地に思い出したのが、C化粧品会社のI社長さんのことです。

 I社長さんは私の講演によく来てくれて、いつも最前列に陣取って、大きな声で笑ってくれます。次第に言葉を交わすようになって、I社長さんの会社の顧問を務めるようになりました。I社長さんは「先生が一旗あげるときは、おっしゃってください。お手伝いします」と言ってくれていました。

 I社長さんにクリニック開設の話をすると二つ返事で資金提供を承諾してくれました。「このお金はお貸しするのではありません。差し上げます」と言って相当の高額な資金を提供してくれたのです。この時の感激はいつまでも忘れません。

 2004年に帯津三敬塾クリニックが開院し、新しいホリスティック医学の拠点が生まれました。私の生涯、最高のプレゼントです。本当にありがとうございました。

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

週刊朝日  2023年6月2日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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