※写真はイメージです (GettyImages)
※写真はイメージです (GettyImages)
この記事の写真をすべて見る

 作家・コラムニスト、亀和田武さんが数ある雑誌の中から気になる一冊を取り上げる「マガジンの虎」。今回は「北海道いい旅研究室」。

*  *  *

 温泉と鉄道に寄せる強い愛情が、行政への批判やメディアへの懐疑と混在、同居している奇跡的なリトルマガジンが「北海道いい旅研究室」(海豹舎)だ。

 最新19号は「ひとり旅歓迎温泉宿」と「廃止駅」「絶景露天風呂」に加え「違星北斗を感じる旅」と熱量高い4大特集だ。

 ひとり旅歓迎温泉宿の巻頭は、白老町虎杖浜温泉の温泉民宿かもめだ。発行人の舘浦あざらし氏が温泉に入ると、「白濁した湯と見間違えるほどの炭酸の気泡の多さと湯面に浮かぶ結晶にまずは感動。ひとり入ると贅沢にあふれる湯は非循環非塩素の正しい温泉だ」と温泉愛が止まらない。

 層雲峡の朝陽リゾートホテルは貸しきり風呂が4室。炭酸水素が豊富な源泉が「毎分一九〇リットルも湧出(中略)非循環非塩素の正しい温泉だ」。

 廃止駅と廃止寸前駅を詳細に紹介する頁では、随所で怒りが炸裂する。日高本線の鵡川駅~様似駅が廃止されるときは「お別れ列車の一本も走らせずに廃止するというJR北海道」トップの「因業な人間性を露呈する幕引きだった」。宗谷本線の抜海駅は、稚内市が年間100万円の維持管理費を負担しないと、事実上の廃駅通告をした。抜海駅が廃止されたら、日本海側(石狩湾を除く)の駅がひとつもなくなる。21年度の北海道新幹線の赤字額は148億円超。日本最北の木造駅舎である抜海駅の年間維持費をなぜJR北海道は負担しないのか。

 ウタリの啄木といわれた歌人の違星北斗の短い生涯を丹念に辿った文章も読みごたえタップリ。正しい温泉に浸かる温泉モデルもタオルなど着けない正しい入浴マナーでポーズをとる。さらに情報量は大手の旅行誌やネットなど問題外。珠玉のリトルマガジンは北の宝だ。

週刊朝日  2023年5月19日号