だが、ふとしたできごとをきっかけに、小屋の雰囲気が変わる。このくだりがすごくいい。鳥のある行動が人の気持ちを和ませるのだ。

 すべてをなくした状態から人がどのように再生していくのか。それが本書の大きな読みどころだが、非常時に彼らがどう行動するかに注目してお読みいただきたい。

 タイトルにもなっている「焼け野の雉」とは、野を焼かれた雉は雛を救うため我が身を顧みず巣に戻るということから、親子の情愛の深さを表す言葉である。『岩波ことわざ辞典』によれば、事実に基づく表現なのだそうだ。

 おけいは火が迫る中、鳥をすべて助けたい、それができないのなら一緒にこの店で燃え死ぬとまで思い詰める。まさに焼け野の雉を地でいくエピソードだが、親しいご近所さんは、おけいを殴ってでも避難させようとする。それでも聞かないとなると、自分の荷物を捨てて鳥籠を大八車に積んで一緒に逃げる。鳶は群衆を整理し、医者は怪我人の治療に当たり、裕福な商家は炊き出しを行い、幕府はお救い小屋を建てる。被災者を受け入れる寺があり、大名も下屋敷を開放する。その一方、前作から交流のある同心の永瀬は、火事の中、幼い娘の結衣をおけいに預けて救助活動に向かったまま行方がわからなくなった。

 子を心配して、我が身を顧みず巣に戻るのは親だけではないのだ。誰かが誰かを助け、互いに助け合ってこの世は回っている。お互いに生かされている、と言ってもいい。分断が進む今の社会で、なんだか忘れていたことを思い出させてもらった気がした。

 夫が行方不明になってから頑なにひとりで頑張っていたおけいが、他人に頼ってもいいんだと知る。逆説的だが、おけいは人に頼ることを知ったからこそ、ひとりで新たな一歩を踏み出せるようになるのである。

 前作から予兆のあった永瀬とのロマンスにも、元夫の羽吉が帰ってきたことで一波乱ある。結衣の成長も含め、こちらもどうか楽しみにしていただきたい。こういう登場人物の変化や成長も、シリーズものの醍醐味だ。早くも次が楽しみでならない。

 なお、梶よう子はかつて『夢の花、咲く』(文春文庫)で下っ端同心を主人公に安政の大地震を描いている。お救い小屋を建て、運営していく側から見た災害の物語と本書は表裏一体だ。併せてお読みいただきたい。

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