雪の季節です。特に今年は異常気象のせいか、雪国以外でもドカ雪が降ったりしています。道路はザクザク、ツルツル、雪の山があちこちに作られて道幅が狭くなり、歩くのがとても大変です。雪道は健常者にとっても大変なのに、ましてや視覚障害者にとっては、雪道は恐怖そのものです。それは、盲導犬にとっても同じこと。そこで、雪道が視覚障害者や盲導犬にとってどんなに危険なのか、考えてみたいと思います。
この記事の写真をすべて見る道路はツルツル、雪山は障害物となり、歩道と車道の区別がつかない…
雪国では雪が降ると、ご近所総出で自宅の周りの除雪をします。それは、自分の家の前が通行人に歩きやすいようにという助け合いの気持ちもあるでしょう。除雪した雪は自宅の周りに集められるのですが、それがちょっとした山になります。大きな通りだと除雪車が一気に除雪するので、雪の山は人の背丈以上に高くなってしまうこともあります。みなさんが歩きやすいようにと除雪するわけですが、この雪山が視覚障害者にとっては障害物となってしまいます。
視覚障害者がいつも通りにまっすぐ歩いていると、白杖が雪の山に当たってしまいます。1つめをうまく避けたとしても、行く手にはいくつもの雪の山。雪のかたまりにあちこちで当たっているうちに、方向感覚がなくなってしまうそうです。安全なはずの歩道に雪山がいくつもあるので、危険を冒して車道を歩くこともあるとか。
また、昼間に雪が解けて夜に急速に冷えると、路面は本当にツルッツルで、まるでアイススケートリンクのようになります。ツルツル路面は見えている人にとっても恐怖ですが、見えない人にとっては恐怖そのものです。視覚障害者によると、こういう路面のとき、前後方向にはあまりすべらないのですが、左右や斜めの傾きには滑って転倒することがあるそうです。歩道は車椅子などが通りやすいように、段差をあえてゆるい傾斜にしていることがありますが、視覚障害者にとって、このゆるい傾斜こそが危険な場合があるのです。
さらに、積もった雪で歩道と車道の区別がつかなくなり、気づいたら車道を歩いていた、ということもあるそうです。歩道と車道の区別がない細い道路では、雪山があちこちにあるため道幅が狭くなり、車と同じところを歩かなければならず、これも大変危ないです。
雪が降ると音の聞こえ方が違う
雪が降ると雪に音が吸収されるためか、街の中の音の聞こえ方が違いますよね。視覚障害者は普段、音を頼りに生活しているので、音の聞こえ方はとても重要です。しかし、雪が降ると音の聞こえ方がまったく違ってしまうので、道に迷うことがあるそうです。
たとえば、雪が降ると周囲の音が消されてしまいます。すると、車が来たことに気づかないことも。最近は音が静かなハイブリッド車が普及しているので、雪道では車が近づいたことがますますわかりにくくなっています。
雪の質によっても聞こえ方が違います。新雪では雪はふわっとしているので音が吸収され、逆に凍りつくと音の反響が大きくなります。
また、防寒のためや、転倒のときの衝撃を吸収するようにと、冬は耳を覆う服装をします。これもまた聞こえにくくなる原因となります。
足の裏に伝わる感触や、白杖からの触覚がなくなる
視覚障害者は普段、足の裏で感じる触覚情報にも頼って歩いています。たとえば、地面がタイルなのかアスファルトなのか、カーペットなのか木製なのか、足裏や白杖から伝わる感触で自分の位置を把握します。しかし、雪が積もると、足の裏からの触覚がまったく変わってしまいます。すべてが雪と氷に覆われてしまうので、どこを歩いているのかわからなくなってしまいます。また、頼りとしている点字ブロックも雪に覆われるため、音声式の方位計を携帯する人もいるそうです。
都市部では点字ブロックに融雪装置がついているところもありますが、大雪に見舞われたり極端に寒さが厳しかったりすると、融雪装置が効かなくなることもあるそうです。
盲導犬は歩道の段差がわからなくなり、一時停止ができない
視覚障害者の目として活躍する盲導犬は、ユーザーと歩くとき、段差があると1段めに足をかけて止まり、段差があることを知らせます。ユーザーは盲導犬が止まるので、そこが歩道と車道の境い目だと認識できるわけです。また、歩道から横断歩道を渡るときも一度止まるように訓練されているので、ユーザーは安全に横断歩道を渡ることができます。
しかし、雪に覆われてしまうと、段差がなくなったり横断歩道が見えなくなったりするので、盲導犬は一時停止できません。止まらずにそのまま車道へ…とうことにもなりかねません。
雪道でも視覚障害者が安全に歩くことができるよう、私たちにできることといえば、家の前の除雪、そして、道路になるべく雪山を作らないこと。また、視覚障害者からは、「点字ブロックがあるところは融雪装置を設備してほしい」「音声信号機を増設してほしい」などの要望が出されています。
今年の冬は寒さが厳しく、また、普段は雪が降らない地方にも大雪が降るという異常な天候が続いています。雪道は健常者にとっても危ないですが、視覚障害者にとっては危険がいっぱいです。雪道でも安全に歩くことができるよう、自治体レベルでの除雪の徹底などものぞまれます。
〈参考:『視覚障害者の歩行者としての交通安全ニーズに関する調査研究報告書』(財団法人 国際交通安全学会)〉