どうして学校で習う音楽は、「楽しくみんなで歌いましょう」というふうに教えられるのだろう。そして、楽しいはずの音楽は、どうして大人になると「自分は音痴だ」と尻込みする人が出てくるような、堅苦しいものになってしまうのだろう。私たちにとって、音楽はいつのまにかとても窮屈なものになっているのではないだろうか。
 広島大学名誉教授で音楽教育が専門の著者は、その理由を「日本人は明治の近代化の掛け声とともに、千年以上の歴史をもつ自分たちの音楽をあっさりと切り捨てた」ことにあると指摘する。つまり、明治以降の日本人にとって音楽とは、西洋からの輸入品であり、努力して学ぶものになったのだ。
 著者は、音楽をもう一度身近なものとして捉え直そうと呼びかける。本書に出てくるのはクラシックから民謡、わらべうた、歌謡曲、ヘビーメタルにパンク・ロックまで。多彩な音楽を「楽しい音楽」「こども用の音楽」「はずかしい音楽」「へたくそな音楽」など、大胆な切り口で語り下ろした本書は、ひとつの日本文化論としても興味深い。

週刊朝日 2014年11月14日号

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