元朝日新聞記者 稲垣えみ子
元朝日新聞記者 稲垣えみ子
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 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】稲垣さんが作った、記念すべき第一作の帽子

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 私とて、国が総力を挙げて目指すデジタル化にいちいち突っ込みを入れる行為がスマートじゃないことぐらいはわかっている。頭の固い「終わった人」感満載。実際そうなんじゃないかと思うと自分でも怖い。でもそのせいか他にツッコミを入れる人が見当たらないので仕方なく書いている。いわば多様性確保のために身を挺しているのだ!

 という長い言い訳はさておき、今回取り上げたいのはDX(デジタルトランスフォーメーション)。ってそもそも何? 実はこの単語自体最近知ったことを正直に告白する。情報源は仕事でたまに乗るタクシー。客席前にドンと据え付けられた画面で流れる広告がなぜかほぼDX関連。でもDXって何ってのがわからないから広告の意味もわからない(拷問)。映像から類推するに、DXで会社の悩み(売上増、人材確保、業務効率化など)が魔法のように解決するらしく、素晴らしいDX! としか言いようがないが、やはり中身はよくわからない。

 と思っていたら先日の新聞で、識者がわかりやすく解説してくれていた。「機械ができることは機械にさせて、人間は人間にしかできないことをする。そうすることで、人材不足を補おうというのがDX」。なるほど。つづめて言えばコンピューターを使った生産性向上ってことか。

 で、突っ込みたいことは二つ。

 一つは「人間にしかできないこと」って何ってことだ。コンピューターにできないことなんてほぼないとも思えるAI時代には相当に哲学的な問いである。失敗すること? と一瞬思ったが、昨今じゃコンピューターも適度に失敗してくれるらしい。じゃあ人間って何なのか、もっと言うなら、我らは一体何のために生きているのか問われる時代になったのだ。もう一つは、機械ができることを機械にさせることが本当に合理的かということ。というのは、私の超節電生活は「機械にやってもらっていたことを人の手に取り戻す」生活で、これが愉快極まりない。間違いなく今の私の幸福のモトなのである。

◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

AERA 2023年3月20日号