動物園の役割は、一言で言えば、野生動物と人とを何らかの形で結びつけることにある。いま、どこの動物園でもパンダは人気者で、我が上野動物園では「上野と言えばパンダ」と地域のシンボルになるほどである。
しかし、人との関わりについて語られることはあまりなかった。『パンダが来た道』は、パンダが発見? されてから今日に至るまでの人との交流史ともいえる詳細な記録である。そして同書の真骨頂は、人が野生動物に対して身勝手に振る舞ってきた歴史を持っていることに気付かせてくれる点にあると思う。
パンダのように好かれる動物がいれば、逆に嫌われる動物もいて、どうしてだろうと疑問が湧く。
こうした疑問に真摯に向き合っているのが『バイオフィリア』であろう。他の生物と結びつきたいという人の欲求が生得的なものであると主張する著者は、「生物多様性」の保全を唱えるナチュラリスト、生物学者である。
とくに、なぜ人はヘビを恐れるのかという問いに関して、感情的に反応するように人がつくられてきたと説明する過程が妙に納得できる。何よりも動物の生態の話が随所にちりばめられていて実感が湧く。多摩動物公園で飼育するハキリアリが出てきたのも嬉しかった。
動物の逸話を集めた本では『ツルはなぜ一本足で眠るのか』が面白い。温度と湿度、眠り、すみか、衣服、適応という範疇ごとに12の逸話が、例えばライオンであれば、「昼間のまどろみは夜のため」という要点と共に説明されている。一つ一つの関心の積み重ねが、動物を知ることに繋がっているのがよく分かる。
多くの動物に関心を持つきっかけとなる本として、児童向けだが侮れないのが『はじめての生きもの図鑑』であり、動物園の飼育員の気持ちも汲み取れるのが『飼育係が見た動物のヒミツ51』である。
どい・としみつ=1951年、東京都生まれ。首都大学東京客員教授。元多摩動物公園園長。共著に『野生との共存 行動する動物園と大学』。
※週刊朝日 2014年8月15日号