漢方薬というと、身体に負担をかけずにじっくりと体質改善を促すというイメージがあります。また実際に医療現場でも、漢方薬の処方率は低く、薬としての"評価"は十分にされているわけではありません。しかし、「漢方薬はもともと急性期の病気を標的として開発された『速効性』のある薬」と断言する医師がいます。本書『西洋医が教える、本当は即効で治る漢方』の著者の井齋偉也さんです。



 井齋さんは北海道大学卒業後、同大学第一外科に入局。独学で漢方治療を始め、現在は日本東洋医学会認定専門医、指導医を務めるなど、その道のスペシャリストとして活動を行っています。



 その井齋さんは、自らが提唱する「サイエンス漢方処方」の第一人者でもあります。サイエンス漢方処方とは一体どのようなものなのでしょうか。本書によると「現代薬理学の側面から漢方薬の科学的な位置づけを明確にし、全ての医者が違和感なく、現代医療の枠組みの中で漢方薬を効果的かつ安全に使用できる環境を整備すること」であるとのこと。つまり、西洋薬と同様、科学的な証拠(エビデンス)を重視して、漢方も扱っていきましょうというスタンスを指します。



 井齋さんは自身の診察経験に基づきながら漢方薬の即効性の高さをこう説明します。



「漢方薬を飲んでもらうだけで肩こりなら1時間、単純なめまい発作なら2時間、急な動悸では10分、こむら返りに至ってはわずか5分くらいでよくなります。また、インフルエンザによる発熱や、ノロウイルスによる下痢・嘔吐も、ほぼ半日でたいてい鎮静化し、翌朝にはすっかり元気になって、患者さんたちはモリモリ食事をとっています」(本書より)



 本書の中では、具体的に症状に合わせてどの漢方薬が効くのか、ということが紹介されています。例えば、悩みを抱えている人も多い花粉症に即効で効く漢方薬として「小青竜湯」が紹介されています。



「小青竜湯には、抗ヒスタミン薬に負けない速効性があり、なおかつ、抗ヒスタミン薬に見られる副作用が全くないのが特徴です。(中略)くしゃみ、鼻水といった鼻炎の症状は、一日のうちで朝起きたときに最も症状が強く出ます。『モーニングアタック』と呼ばれるものです。これに対処するにはとにかく朝起きたらすぐに小青竜湯を一包飲みます。これだけでうまくいくこともあります」(本書より)



 即効性をもつ漢方薬を、サイエンス漢方処方によって西洋薬とうまく使い分けられるようになると、医者にとっても、患者さんにとっても「この上ない福音」となると井齋氏は断言します。



「医者は病気と闘うための戦略が一気に増えますし、患者さんはずっと悩んでいた症状が解決される道が開けます。前記したように、医学の質が飛躍的に向上していくこ間違いありません。これを実現するには、漢方薬が有効であるという臨床データを積み上げる一方で、なぜ有効なのかという科学的根拠を、誰もが納得する形で示すことが必要不可欠です。これこそ、サイエンス漢方処方の目指すところでもあります」(本書より)



 漢方薬は、苦い、飲みにくい、効果が表れるまでに時間がかかる等の先入観を抱いている人も多いと思いますが、漢方薬の"知られざる力"を知ってしまったら、そんな先入観もなくなるかもしれません。