彼らはこの10年間で日本がおかしくなっている状況に猛烈なフラストレーションを抱えている。映画には使っていませんが、「辞め時を逸した」という発言もありました。しかし辞められない。理由のひとつは、ある種エリートから離脱してしまう怖さがあるから。それはマスコミの人間も同じだと思います。自分の生活が根っこから変わってしまう、その恐怖から逃れられない。それでも彼らはこの映画が誰かに少しでも届き、少しでも社会が変わればという思いで協力してくれたんです。
──現代日本に巣くう不寛容さを「妖怪」としてアニメーションで紹介するなど、ユーモラスな仕掛けもある。ジャーナリストの鈴木エイト氏や、新右翼系民族主義団体「一水会」の代表・木村三浩氏による解説は、旧統一教会と自民党に関する「なぜ?」の素朴な疑問を解決してくれる。
この映画は安倍氏の直截(ちょくせつ)な批判をするものではありません。いまの政治の背景がおおよそわかるようになっているので、どんな立場の人にもまずは観てほしい。本作の公開で自分や家族の身に何かが起きるかもしれないという怖さは正直あります。それでも多くの人にこの危機的な状況に気づいてもらいたいんです。
いまの岸田政権にどれほど安倍さんが影響を与えているか。私たちはいま起きている状況を知り、何ができるかを考えないといけない。会話にならない答弁を「おかしいじゃないか!」ともっと突き上げなければならない。日本の状況に「希望がないなあ!」と感じるときもありますが、それでもまだやれることはある、と僕は思っているんです。
(フリーランス記者・中村千晶)
※週刊朝日 2023年3月24日号