自民党は一度野党に落ちたことで、本気でメディア対策をやり始めました。そしていまも発信力とメディアへの圧力で世論をコントロールしている。この映画は本来ならばテレビの2時間の特別番組でできるはずです。膨大な映像資料や取材記録が残っているんですから。でもいまのテレビではそれができない。だれもやろうとしない。
──劇中には16年に高市早苗総務相(当時)が国会答弁で「電波停止」発言をするシーンが映る。まさにいま、内部文書発覚で揺れる「放送の政治的公平性」問題の起点だ。続く質問は「安倍さんはどんなふうに育ってきたの?」。政治ジャーナリスト・野上忠興氏が幼少期の安倍氏を語る。「ミーハーだよね、ほんとに」と評する人物像は衝撃的ですらある。
乳母兼養育係だったウメさんの「兄(寛信氏)にかまけると、すぐにすねてしまう」などの証言はすごい話だなと思いました。安倍さんの幼少期からの性格や特性について考察できる。
映画を観て気づかれる方も多いと思いますが、安倍さんは敵を作る発言や言葉をあえて発する人です。「あんな人たちに負けるわけにはいかない」とか「悪夢のような民主党政権時代」とか。とにかく相手をくさす。およそ成熟した大人の言動とは僕には思えません。しかもそれを一国の総理の立場で言うわけですから、それが社会全体の空気として蔓延し、いまにも続いてしまっていると感じます。
──「昭和の妖怪」と呼ばれた母方の祖父・岸信介氏の人物像も紹介される。野上氏は祖父に心酔していたという安倍氏のねじれた思いにも言及する。内山監督が取材のなかで特に印象深かったと振り返るのは、匿名でインタビューに応じてくれた現役官僚2人の言葉だ。
彼らは「総理が平気で嘘をつき、そのあと財務省の赤木(俊夫)さんが自殺してしまった」と、当時のショックも語ってくれた。上司(幹部)から「政権の方向性と違うことは考えるな」と言われ、逆らえば「ぽーん、と首が飛ぶ」と。その状況が露骨に始まったのは14年に内閣人事局が設置され、菅官房長官が人事権を握ってからだと。