「桜を見る会」で挨拶する安倍晋三元首相
「桜を見る会」で挨拶する安倍晋三元首相
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 衝撃の死を遂げた安倍晋三元首相。高い支持を集めた一方で国民の分断と格差を広げた。「パンケーキを毒見する」で菅義偉氏を追った内山雄人監督(56)が新作「妖怪の孫」で安倍氏の実体に迫る。

【写真】「昭和の妖怪」と呼ばれた人物がこちら

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 前作の「パンケーキを毒見する」(2021年)の公開直後からプロデューサーの河村光庸さん(22年6月急逝)に「次は“本丸”をちゃんと描くべきなんじゃないか」と言われていたんです。自民党のあるベテラン議員にも呼び出されて「自民党がおかしくなったのは、安倍さんからなんだよ」と資料を渡された。とはいえ簡単に手を出せる対象ではない。ある種の恐れもあったんです。

──そう内山監督は話す。それでも「やらねば」と動いた理由には、日々じわじわ感じる閉塞感や、恐怖があった。

 第2次安倍政権ではさまざまなことが勝手に閣議で決められました。13年の「特定秘密保護法」、15年の集団的自衛権の行使を可能とさせる「安全保障関連法」、そして岸田文雄政権での「防衛費増額」「原発再稼働」。自民党は野党の質問にも国民の声にもまともに答えず、そもそも会話になっていない。なのにマスコミも危機感を全く伝えていない。その始まりが安倍さんにある、ということをみんなが感じている。ならば安倍さんという人はなんだったのか。客観的な事実をもとに検証しなければならないと思ったんです。

──だが、取材を進めていた22年7月に安倍氏が殺害される。世の中の空気が一変し、与党、野党の政治家や安倍氏を取材してきた記者たちからも軒並み取材を断られた。

 いったんすべてがストップしました。でも直後に旧統一教会の話が出てきて「これももともと、安倍さんが抱えていた問題なのでは」と、もう一度製作陣の気持ちが立ち上がった。元経済産業省の官僚でジャーナリストの古賀茂明氏の協力を得て、取材を再開しました。

──映画はさまざまな「なぜ?」をキーワードに、わかりやすく「安倍政権」を読み解いていく。最初の問いは「何で安倍さんはこんなに選挙に強いの?」。12年に第2次安倍政権がスタートした後から自民党が大手広告代理店と手を組み、徹底的なマーケティング戦略をしてきた事実がデータや内部文書で明らかになる。

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