
文氏の決断は、政権維持のためにやむなく採った措置だった。本来ならば、日本政府としては何らかの理解ある対応をすべきだったのではないか。経済制裁を連発すれば、韓国側が激怒するのは当然であり、日韓関係は悪化した。
私は安倍首相に、なぜこのような馬鹿なことをしたのか、と批判し、日韓関係の回復に全力を投入すべきだ、と強く求めた。
だが当時、安倍首相が黒田東彦日銀総裁と組んで、「異次元の金融緩和と積極的財政出動によって内需拡大、日本経済は成長する」と自信満々に強調していたアベノミクスの失敗が判明していた。安倍首相が3選されたとき、内需拡大も経済成長もまったく実現できていなかった。安倍首相は私にどうすべきかと問い、私は西村康稔、斎藤健、村井英樹の3氏をキャップにして、日本経済の抜本的改革に着手することを提案した。安倍首相が経済問題に専念したために日韓関係の回復には手が付けられなかったのである。ただし、安倍首相の辞任により、その改革も道半ばとなった。
その意味で、今回の韓国政府の提言は大変ありがたいことだ。中国やロシアの脅威、北朝鮮問題も山積する中、日韓関係の回復は急務だ。岸田文雄首相は何としても同調すべきである。
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
※週刊朝日 2023年3月24日号