
21世紀最初のディケイドも後半に差しかかったあたりからニール・ヤングが精力的に取り組んできたプロジェクトに、リンクヴォルトがある。簡単に説明すると、戦後北米文化の象徴でもある巨大なアメリカン・カーをいわゆるエコカーとして甦らせること。具体的な素材として選んだのは、彼自身の愛車でもある59年製のリンカーン。究極の目標は、流麗なフォルムとトランクから突き出たタイアハウスが印象的なあの美しい、超重量級の車を、ガロン100マイルで走らせること。日本風にいえば、リッター約40キロ。とてつもない、夢のような目標だが、周囲の人たちから無謀といわれても、夢を追求するのがニールの、ニールらしいところだ。
中古の霊柩車でアメリカ西海岸を目指した20歳の旅からはじまり、ニールは自動車と北米大陸の道を愛しつづけてきた。《ロング・メイ・ユー・ラン》など自動車をテーマにした曲も少なくない。その夢や楽しさを手放すことなくマザーアースの自然をどう守っていくか? リンクヴォルトは、その難しい問題に向けた、ニールの返答だった。しかも、机上の空論ではなく、実際に行動する。ガレージの火事が原因でいったんは中断したものの、このプロジェクトは、オイルシェルを重大な環境破壊と訴える活動とあわせて、もちろん今も継続されている。
2009年春に発表されたアルバム『フォーク・イン・ザ・ロード』は、そのエコロジー・プロジェクトのBGM、あるいはサウンドトラックと呼べるもの。リンクヴォルトへの取り組みをスタートさせたベテラン・アーティストからのステイトメントと呼んでもいいだろう。ベン・キース、リック・ロサス、チャド・クロムウェル、ペギ・ヤングに加えて、ナッシュヴィル系のスタジオ・ミュージシャン、アンソニー・クロウフォードが参加。プロデュースは前作同様、ニールとニコ・ボラスとのザ・ヴォリューム・ブラザーズが手がけた。
全体的には残念ながら地味な印象の作品だが、具体的な言葉でリンクヴォルトの概念や特徴を歌った曲から、美しい自然のなかで車を走らせる喜びを歌った曲まで、焦点はしっかりと絞られている。タイトルの「フォーク」は、フォークソングのフォークではなく、食器のフォーク。つまり、岐路。「さあ、どっちの道を行く?」と、ニールは自らに問いかけ、そして、僕らに問いかけている。[次回3/19(水)更新予定]
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