京都教職員組合は2月中旬、京都府教育委員会に「卒業式のみ前倒しでマスクを外す基本方針は無用の混乱を生む懸念がある」とする申し入れを行った。同組合書記長の星琢磨さんによると、申し入れに至った理由は二つ。一つは国が外すことを「基本」とするのはどうなのだろう、という思いだ。

 星さんは長く中学校の教員を務めてきた。クラスには、前髪を伸ばし目元を覆っている子もいれば、コロナ禍前からマスクをつけて登校している子もいた。その度に「長い前髪やマスクには、どんな思いが潜んでいるのだろう」と想像しながら接してきた。「早くマスクを外したい」と思う子どももいれば、感染への不安や口にはなかなか出せない事情から「つけていたい」と考える子もいる。だからこそ、一人一人の気持ちに寄り添い「いろいろな形があっても、卒業の日を迎えられたね」などと柔らかな働きかけを行っていきたいと考えていた。星さんは言う。

「『基本』という言葉が使われることで、例外はあってもそれがスタンダードとなり、同調圧力が生まれる懸念もある。流れに乗れない子どもの気持ちは置き去りになってしまうのか、一人一人が保護者と話し合い決めてほしいという思いがありました」

■準備進める最中の通知

 もう一つの理由は、準備を進めるなか突如として通知を受け取ったことだ。一般的には、卒業式の準備は3学期がスタートしてすぐに始まる。職員会議を重ね、感染防止対策に意識を向けながら準備を進めるなかでの通知に戸惑いを覚えたという。

「一方的な通知には強い違和感がありました。どのように卒業生を送り出すのか、それぞれの学校が子どもたちや実態に応じて取り組んでいくことだと思います」

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2023年3月20日号より抜粋