パシャパシャと焚かれるフラッシュとシャッター音の中で、企業のトップが「申し訳ありませんでした」と頭を下げる。あまりに見慣れた光景。しかし彼らには謝罪しなければならない理由が本当にあったのか。
 郷原信郎『企業はなぜ危機対応に失敗するのか』の副題は「相次ぐ『巨大不祥事』の核心」。企業のコンプライアンスのあり方を問いつつ、メディアや消費者の思い込みにも「待った」をかける好著である。
 俎上に上げられるのは、たとえば昨秋騒ぎになった「食材偽装」問題だ。「芝エビ」と表示されたメニューにバナメイエビを使っていた、「ビーフステーキ」に牛脂が注入されていたことなどが「偽装」とされ、阪急阪神ホテルズの社長は辞任。ことは大手百貨店にまで飛び火した。しかし、と著者はいうのである。厳密な表示にこだわればこだわるほど料理の価格差は拡大し〈一握りの富裕層以外の多くの庶民は、「牛脂注入牛肉使用」などと表示した安価なビーフステーキを、みじめな思いをしながら食べるしかなくなるのである〉。それが望ましい社会かと。
「食材偽装」にはいくつもの誤解がからんでいた。金融業界全体を巻きこんだみずほ銀行の「暴力団員向け融資」問題にも、商品の自主回収に発展したカネボウ化粧品の「白斑被害」問題にも誤解があって……といわれると「そんなバカな」と思うでしょ。でも、そうなのだな。
〈問題を単純化し、「新聞やニュースの見出しにしやすい表現」にあてはめようとする、そして、一度不祥事に対する批判がマスコミ全体に拡大すると、その後に新たな事実がわかっても後戻りはしない〉
 多くの企業はここで事態が平時から有事に変わったことが理解できずに自爆する。要はメディアも消費者もバカであることを企業は知らなきゃダメだという話である。とはいえ〈マスコミの批判は「不可逆的」である〉とは犯罪報道や事件報道にもいえること。消費者のメディアリテラシーも問われているのだ。

週刊朝日 2014年2月21日号