益一哉学長が言う。
「いま、理工系分野における男女のバランスはあまりにも偏っています。女子枠の創設は現在の状況を早急に改善し、新産業を興すための『ポジティブアクション』です」
理工系女子学生の割合が一定数を超えると、保護者や家庭を取り巻く人たち、社会全体の意識も変化する。誰もが隔てなく学び、働ける環境が生まれ、様々なスキルや異なった価値観・経験、幅広い知見を持つ学生や教職員が集まるようになると、益学長は期待する。
日本では「理系女子」を特別視する風潮が根強い。
東京大学理科2類の岡渚さん(19)は「アルバイトの面接を受けるときなど、『東大』かつ『理系』だと知った途端、相手が『変わった子』としてこちらを見ているのを感じます。地元に帰省したとき、上の世代から『女の子なのに理系?』と言われて、不快に感じたこともありました」という。
「女子枠」の導入が広がれば、こうした意識を変えるきっかけになるかもしれない。
その一方で、「女性の優遇ではないか」との声も出ている。
「男性優位の理系環境を変えるため、女子の比率を増やす趣旨には賛成です。ただし受験の公平性が保たれるかどうかという点は懸念しています」(お茶の水女子大学3年の女子学生、21歳)
「女子だけでなく、男子の募集人数も固定したほうが、試験の公平性が保たれるように感じます」(早稲田大学3年の女子学生、21歳)
など、理系専攻の女子学生たちからも懸念する見方がある。
そうした声について、益学長はこう語る。
「思い切ったことをすれば反対の声は必ず出ます。賛否が分かれても、その上でチャレンジするという選択肢はあっていい。例えば同じ試験を受けて男性だけ20点引くのなら『女性優遇』です。でも我々がやろうとしているのはそういうことではありません。一般選抜は従来どおり筆記試験の点数に基づいて行いますし、総合型選抜・学校推薦型選抜の『女子枠』に関しては一般選抜と異なる評価方法を設けています」