遊園地の古びた遊具の飛行機と一体になり、悲しみを湛える背広姿の男。牛丼屋のカウンターでそれぞれ無表情な店員からガソリン給油のノズルを口に差し入れられている3人のサラリーマン。人が均一化され、ものとして扱われる現代の不安や孤独、悲しみを、精緻に、体に突き刺さる痛みとして描く石田の作品群は、2005年に31歳で亡くなってからも多くの人々を揺すぶってきた。
 本書は、今秋の足利市立美術館を皮切りに、15年春まで4カ所で開催される巡回展の図録だが、同時に書籍として刊行された。掲載されるのは、作品だけでなく、おびただしい数のアイデアスケッチ、下絵、言葉。「僕の求めているのは、悩んでいる自分をみせびらかすことでなく、それを笑いとばす、ユーモアのようなものなのだ」と書く。アイデア出し1日3個というノルマを自分に課し、親からの仕送りを断ち、工事現場などの日雇いで生活費を稼ぎ、制作に没頭した。
 絵画を武器に、愚直に思索し、生真面目に現代に向き合った若者の生涯が、本書にはびっしり詰まっている。

週刊朝日 2013年12月13日号

[AERA最新号はこちら]