平山:大高城が最前線でずっと落ちなかったのがよくわかりますね。
千田:信長側の善照寺砦などと比べて、今川義元の城の先進性が際立ちます。義元の名誉回復は進んでいますけど、城づくりの視点から見ても優れた武将でした。
平山:それに大高城は尾張の国境地帯の城としては圧倒的に大きい。現存している今川の城の中でも、ピカイチだと思いますよ。
千田:さらに発掘の結果、どうやら桶狭間の戦いからほどなくして、大高城のすごい堀は埋められているんです。
平山:信長にとっては軍事拠点として再利用する必要性がなくなりましたしね。
千田:今川の城が当時のまま遺跡になっているのはすごい。
平山:駿河などに残る今川の城のほとんどは、今川氏滅亡後、駿河・遠江の城には武田が入って相当、手を入れているんですよね。だから今川の城はよくわからないんです。さらに徳川が入って家康が改修するので、どこまでが今川でどこからが武田って、なかなか難しいですよね。
千田:大高城は信長との戦いの最前線中の最前線で、技術を込めた一番よい城をつくったと思います。今川のお城を考えるには抜群だと思います。
平山:雨の日に長野県上田で調査をしていたことがあるんですよ。虚空蔵山城(長野県)をはじめとした山の上にずらっと村上氏が築いたといわれるお城があるのですが、雲が山の一定のラインよりも上にしか、かからないのを目撃しました。霧は葛尾城(同)から砥石城(同)までかかるそうです。地元の人は「下がり霧」って呼んでいるんです。
千田:へぇー!
平山:葛尾城には出城の姫城があるじゃないですか。それに虚空蔵山城にはすぐ下に飯綱城があり、そこには霧がかかりません。だからそこに城が必要なのですね。
千田:晴れの日だけ見ていてもわかりませんね。
平山:信州の城郭研究で著名な宮坂武男先生が「お城同士が会話をしているね」って言ったそうです。敵が見える下の城と霧で目視できない城が交信し合っているんですね。